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危険人物だってさ

 そのおっさんは、一言で言うならみすぼらしい格好をしていた。


 白髪が混じったモジャモジャのアフロヘアを頭に乗せ、丸いレンズの眼鏡を鼻の頭に乗せている。

 着ているのはよれよれの白衣で、中はシワとシミだらけのしわくちゃのTシャツとだぶだぶの茶色い長ズボン。

 おまけに頬はこけていて、口周りには無精髭がまばらに散在している。

 目つきは虚ろで、どこを見ているのかさっぱり分からない。

 外側だけは完璧に、駄目なタイプのおっさんである。


 だが――私の直感が告げている。こいつは、ただのおっさんではない。

 何かが、根本的に違っている。

 こいつは駄目な浮浪者のおっさんとか、そもそもそういった外見だけの話ではない。

 目の前に現れた生物は、人間の形をしているだけの危険生物のような気がする。


 身体に纏っている気配が濃厚すぎるのだ。

 人間を大きく外れた規格外の気配の塊が、私の目の前に立っている。


「さっきから警戒しているようだが、別に取って食ったりはしないから安心してくれ給え」


 奴がこちらに視線を向けて、ややぎこちなく微笑んだ瞬間――私の身体が反射的に跳躍した。

 私は一瞬にして奴の間合いから距離を取り、戦闘態勢をとっていた。


 気がつくと、冷や汗が全身の毛穴から流れていることが感じられる。

 恐ろしく緊張しているのを実感する。これだけの気配に会ったことは生涯に一度も経験が無い。

 二十数年という短い時間しか生きていないが、それでも修羅場は幾つか潜ってきたつもりだった。

 だが、今まで潜った修羅場の経験が教えてくれている。

 こいつは危険だ、と。

 本脳が全力で警鐘を鳴らしている。


「あんたは……一体何者だ?」


 私の声が聞こえる。それはまるで、私じゃない誰か別の人間が発しているような声に聞こえた。

 その声は酷く怯えているように震えていて、絶対的強者の機嫌を伺っているようにしか思えない。

 それが無性に腹立たしいが、実際私はビビっている。

 目の前のこいつを、敵に回して勝てる気がしない。


 奴は少し考える素振りを見せた後、やや微笑ましげな視線を私に向けた。


「橘灯くん、君は私の潜在能力を感じ取れるだけの強さを身に着けているようだな。だが実に残念なことに、その強さは私との会話を阻害してしまう程度の中途半端なものでしかないらしい」


 それを聞いた瞬間、私はキレた。

 いや、その瞬間のことを冷静に、よくよく思い返してみるに、私はキレたわけではなかったのだろう。

 感情が爆発したこと自体に間違いはない。

 ただ、怒りという感情が爆発して我慢が効かなくなったという意味で爆発た訳ではなかったのだ。

 では何の感情だったのか?


 それは恐怖であったと、今なら思える。


 純然たる命の危機に恐れを抱いた動物的本能の発露だったと、今なら分かる。






 さて、その後の結果を言おう。


 床を抉り潰す程に力の入った私の踏み込みによる突進は、軽々と私を奴の目の前まで運び、私に完全有利な間合いをつくってくれた。

 今までの経験と無意識下にある生存本能が、私の命を脅かさんとする気配の塊に、拳を打ち込んだ。

 私の意志で握られていないにも関わらず、その拳は何よりも硬く握り込まれ、爪が手の平に食い込む程に力が入っていた。

 生涯でも出したことのない最速のスピードと体重をこれ以上なく素晴らしく乗せた一撃が、奴の顔面に吸い込まれるように入っていく。


 完全に直撃した。


 拳が奴の顔を捉えたと思ったと同時に、奴の顔面の肉を粉砕する感触が神経を通じて伝わってくる。

 奴の頭は粉々に消し飛び、その身体は仰向けにぶっ倒れた。


 ……あれ? こいつ脆すぎないか?

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