九華梨コンビニの一週間
少し長めですがゆっくり楽しんでいただけたら幸いです。
こういう平和なほのぼの系を息抜きがてらに書いてみるのも良いですねぇ。
【九華梨コンビニエンスストア】
「はぁ~~~~~~~………」
「おぅ。どうしたい? 咲坊」
渋々しい声が僕に語りかけてくる
そう、敢えて言うなれば刑事ドラマの先輩ポジションの人の声とでも言おうか
僕は何処か耳に残るその声は少し好きだ
「その呼び方は止めてください、って! 桜夢さん。俺は紅坊じゃなくて鳴咲ですって」
「変わらねぇさ。俺から見りゃ腰曲げたジジィだって子供さ」
「いったい何歳なんですか……」
「そんな事よりよ。お前さんのため息の理由が知りたいね。恋の悩みかい?」
「恋じゃありませんよ。いつものことです」
「あぁ、アルバイトの連中か」
さて、ここで少し自己紹介をしておきたい
僕の名前は鳴咲 紅、現地の九華梨高校に通っている高校一年生だ
そして今は父が経営していた小さなコンビニの代理店長をしている
どうして代理かと言うと、実は店長である父が行方不明になってしまったから
今まで何度か急に居なくなることはあったが、今回はその期間が長い
店を放置するわけにもいかないので僕が代理としてこの店の店長をしているのだ
とは言っても学校もあるから午後だけなんだけど
ご丁寧に父は失踪する前に店についてのメモを残していったので経営に問題はない
そして、この桜夢さんは日曜日に店に来てくれて僕の相談に乗ってくれる
よく相談に乗って貰ったりしてるんだよね
でも、流石に問題なく順調ってわけじゃない
あの父あってのアルバイトあり、って所かな
アルバイトで雇ってる人がもの凄く変わり種なんだ
そしてそれが今の悩みでもあるわけで……
「何だい、上手くいってないのか」
「いや……、別に仲が悪いってわけじゃないんですけど。うちって高校が近いからアルバイトの人はよく入るんです。だけど、あの父が雇ったバイトなんで……」
「確か一週間に一日ずつバイトが変わるんだったな。今日は誰も居ないのか?」
「今日は日曜日で来る人も少ないから、バイトは居ないんです。だから月、火、水、木、金、土、で人が違います」
「おう、そうだったな。それで? 悩みってぇのはそれかい」
「えぇ、そうなんです。この前の月曜日なんて……」
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【月曜日】
「いらっしゃいませー」
「……」
「……あの、影島さん。お客様には挨拶してくださいね?」
「…………………いらっしゃい」
(声小っさ!!)
僕の隣でレジに立つのは忍者のように顔を黒いマスクで覆い隠した女性
父さんいわく、対人恐怖症を治すためにアルバイトを始めたらしいんだけど……
そんなわけでマスクについては多めに見るように、とのことだ
「あの、すいません」
「はい! 何でしょうか?」
「肉まん一つくれませんか?」
来たのはくたびれた感じの中年男性
見たところ30~40歳ぐらいかな。会社終わりに小腹が空いたから、って所かな?
「はい、解りました」
熱々の肉まんを取り出して影島さんに手渡す
彼女が隣に居たものだから、それが良いかと思って
だけどそれが間違いだった
「熱っ…………」
「あぁ、大丈夫ですか?」
中年男性は優しく影島さんに語りかける
こういう人は苦労してるんだろうけど人には好かれるんだろうなぁ
「ひぅっっ!?」
「え?」
宙を舞った肉まんは中年男性の背中にIN
見事なまでに首と服の間に滑り込んでいった。バスケなら3Pだよ! やったね!!
「づぁっっづあぁっづうづううぅううううう!?」
たぶん、あの中年男性はその歳代で一番の動きをしたんじゃないのかな
おろおろ慌てる影島さんが少し可愛く見えたのは覚えてる
ただ、僕は彼の服を剥いで肉まんを地面に叩き付けたんだけど、それを入店してきたばかりの若い女の子が見てたんだよね
上半身裸の中年男性の背中を摩る僕を見て全力で逃げた。僕は女の子が好きです
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「なるほどねぇ、そりゃ大変だ」
「しかも、その女の子が中年男性の娘さんだったらしいんだ。悪いことをしたよ……」
「それは本当に悪いことだな」
「火曜日も酷かったんですよ……」
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【火曜日】
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃーい」
今日のアルバイトは怒賀くん
名前はゴツいけど本人はもの凄く優しい見た目なんだ
糸目って言うのかな。細い目で八重歯なのが特徴
彼とは歳も近いことがあって仲が良いんだよね
「おらよ」
「はい、ガムが一点ー……」
「一々口に出さなくても解ってるっつーの……」
レジに来たのは見た目からして不良って感じの人
ギンギンの金髪で口には短くなった煙草を咥えている
「え、えーっと……、120円になります」
「……チッ」
不良はもたもたとレジを打つ怒賀君に対し不機嫌さを露わにして舌打ちする
その時、僕は品物を並べてたんだけどその光景をハラハラしながら見てたんだ
「200円のお預かりで……、えっと、えっと」
彼は店でアルバイトを初めて日が浅い
当然、こんな怖い人が来れば慌てるし恐がりもするだろう
だけど、それは不良のイライラを募らせるには充分すぎたんだ
「ッッッッッゼェんだよクソガキが!! とっととしろやァ!!!」
「ひゃ、ひゃいぃ!!」
びくっと体を震わせた彼はレジに身を隠す
未だに怒鳴り散らす不良を前に彼はレジに隠れたまま出て来なくなってしまった
「あ、あのう」
「あァん!?」
そうして僕は不良にタックルした
タックルと言っても抱きつく形で、彼はレジから少し離れた所に僕と共に転がって行く
「痛ぇな! 何しやが……る…………」
怒りに満ちていた不良の顔色は段々と真っ青になっていく
まぁ、自分が怒鳴り倒してた人が銃を構えてて、後ろの棚に重婚が出来てたら当然だよね
「え、エアーガンなんざ!!」
「バネの伸縮度を120倍にしてる。実弾以上の威力だ……。死ぬか? くそ野郎」
ガッシャン、と銃のボルトを引く怒賀くん
その見た目は優しそうな彼ではなくて生粋の殺し屋みたいだった
不良はと言うと捨てられた子犬みたいな目してた
普段怒らない人が怒ると怖いって言うよね
エアーガンって銃刀法違反にはならないのかな?
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「怒賀くんはエアーガンとか模造刀とか大好きらしいです」
「恐ろしい坊主が居るモンだなぁ……。それでその不良はどうなったんだ?」
「怒賀君の弾丸が足に擦って、引きずりながら帰って行きました。逃げる暇も無かったので仕方無いですね」
「鬼だなぁ……。二重人格かよ」
「あははは、そうかもしれないですね。でもまぁ、普段は優しいですよ? 水曜日のあの人には劣りますけどね!」
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【水曜日】
「お客来ないなー」
「き、来ませんね! えへへ……」
恥ずかしそうに笑う彼女は月城さん
僕と同級生でクラスの癒やし的存在
少し大きい服を着ていて袖から指先だけ覗いてたり、調理実習で塩と砂糖を間違えたりする天然系ってやつ
気軽に話せるし優しいし可愛いしで男子から人気は高いんだけど、黒い噂もあったりするんだ
僕は嘘だと思ってるけどね
「ごめんね、月城さん。折角、店を手伝って貰ってるのに……」
「い、いえいえ! 私だって社会体験したかったんです!! そんな時に鳴咲くんに声を掛けて貰ったから……。それに、お客さんが来ないのは鳴咲くんのせいじゃないですよ!」
「……ありがとう。月城さん」
月曜日は無口な人と気まずい時間を過ごし、火曜日は銃刀法違反ギリギリの人と過ごす
そして水曜日はほんわか系の癒やしと過ごす
あぁ、素晴らしきかな我が店長生活……。前二つを覗くけどね
と、そんなことを考えてたらお客さんが来店してきた
見たところ身長は高くないかな? 少しやせ形って感じだなぁ
全身黒のコーディネートはちょっとなぁ……。手に持った包丁と色が合わないし
覆面は目出し帽かぁ……。きっとファッションデザイナーに会ったら大声で怒られるんだろうな。この人は
「金を出せ」
「代理店長なんで知りません」
「嘘をつけぇっっ! レジに入ってるんだろうがぁ!!」
「今日はお客が来なかったのでないんです! 本当です!!」
「昨日や一昨日の金はどこにやったんだ!?」
「記憶の彼方に!!」
「ふざけてんじゃねぇぞ!!!」
「ふざけてないです! ちょっと真面目です!!」
「ふざけてるだろ絶対!!!」
「ひ、ひっ……」
僕の隣で月城さんが子鹿のように全身を震わせていた
まずいな、これは昨日の不良なんかよりまずい
本気で命の危機を感じてしまう
相手は声からして男だろうし刃物も持ってる
僕が勝てる相手じゃ……
「お嬢に何してくれとんじゃ。われゴラァ」
「えっ」
「おぅ、若いモン呼んでこい。挽肉工場に連絡や」
「ウッス!!」
「麻酔なんざ要らんけぇのぅ、お嬢を怖がらせた罪をその身で償えや……」
「ひ、ひぃいいいいいいいいい!!!」
強盗さんは見るからに裏社会を仕切ってそうなサングラスのお兄さん達に連れて行かれた
挽肉工場ってあれかな。働かされるのかな?
少なくとも今僕の頭を過ぎるどころか往復しまくってる肉塊の想像だけは実現されたくないなぁ
「あぁ……、怖かったですぅ……」
「大丈夫?」
「はい! おじさん達が来てくれて助かりました! 後でお礼言わないと!!」
「……知り合い?」
「私のお父さんの事務所で働いてるんです!!」
ちなみに、余談なんだけれど
彼女の黒い噂ってのは実家がヤクザってことなんだよね
本当に誰がこんなデマを流したんだろうか
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「いや、それデマじゃな……」
「本当、人を陥れるような噂を流すなんて最低ですよ! 月城さんの気持ちも考えて欲しいですね!!」
(否定しきれない事実に記憶を改ざんしたか……)
「怖い人もたまに来て「お嬢に手ェ出したら沈めっぞ」って言うんですけど、何のことでしょうか?」
「その子には手を出さない方が良いってことだよ。で、木曜日はどうなんだ?」
「木曜日ですかぁ。木曜日は何と言うか……」
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【木曜日】
「いらっさぁーい」
「いらっしゃいませー……。って薬師さん! もっと歯切れ良く!!」
「なはは~~~~。ごめんねぇ~~」
この何処か間抜けた人は薬師さん
何でも有名な医術大学の教授だったらしいんだけど、薬品の調合ミスで事故を起こしてクビになったらしい
今じゃ収入はこの店でのアルバイト代だけだそうだ
ま、こんなのほほんとした人じゃミスも起こしそうだけど……
「ん~~……、暇だねぇ……。散歩にでも行こうかなぁ……」
「今営業中ですよ!何言ってんですか!!」
「そうだったねぇ~~。なはは~~~~」
駄目だ! この人のペースに合わせてたら僕までのほほんになってしまう!!
しっかりと自分のペースを保たないと……!!
「すいませーん」
「はいはい!!」
レジに来たのは二十代ぐらいの若いお兄さん
随分とスウィーツを買い込んでるみたいだけど、どうしたんだろうか?
「スウィーツ多いですねぇ~~」
「いや、あははは……。実は店の主人に買ってくる様に言われちゃって。恥ずかしい話なんですけど」
「大変ですねぇ~~~~~」
お客様になんてこと言うんだこの人は!!
「女性ですか~~?」
「え、えぇ! まぁ」
「そんな貴方にはこれ~~」
スローモーションかと見間違えるほどゆっくりと薬師さんは懐から何かの瓶を取り出す
何だろうか? ピンク色の液体?
「媚薬~~~~」
「「何てモン出してんだアンタは!!!」」
思わずお客様と声が被ってしまった
「これで女性店主さんもメロッメロ~~。貴方もパシられることなく平和に過ごせますよ~~~~」
「い、いやぁ……」
「どうですか~~。今なら無料で~~~~」
「じ、自分の力で振り向かせたいので! 結構です!!」
「だったら、もっと頑張らないといけませんねぇ~~~。応援してますよ~~~~」
「は、はい!!」
お兄さんは、どこか嬉しそうな背中で帰って行った
僕の隣で薬師さんが「平和が一番~~~」と言っていたけど……。まさか計算通り?
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「ほぉ、中々の奴だな。会ってみたいぜ」
「桜夢さんはあのスローペースに怒りそうですけど……」
「……否定できねぇな」
「それで、金曜日はちょっと困るんです」
「ほぅ、何でだ?」
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【金曜日】
「それでぇ~~、準くんは私に尽くしてくれるんです!!」
「はぁ」
「孝くんは真面目系なんですけど~~、やっぱり私には甘くてぇ~~」
「はぁ」
「翔太くんは私を突っぱねるけど本当は照れ屋さんなだけでぇ~~」
「はぁ」
「ちょっと! さっきから生返事ばっかりじゃないですかぁ!!」
「はぁ」
「ちゃんと聞いてくださいよぉーーーー!!」
端から聞けば、女子大学生の彼氏自慢に聞こえるだろう
現に僕もこの人と会ったばかりの時はそう思っていた
「店長も『イロ彼X』やりましょうよ!!」
「あの、僕は男なんですが」
この女子大学生、音々原さんは生粋のシュミレーションゲーマー
つまり男性との疑似恋愛が出来るゲームをこよなく愛しているのだ
この前に聞いた話だと最近は現実の男よりもゲームの男の方が好きになり始めたんだとか
「男でも良さが解ります! きっと!!」
「解りたくないなぁ……」
「何言ってんですかぁ!!」
いやもうホント、何言ってんだろうこの人
「良いですか!? そもそもシュミゲーの素晴らしさはですねぇ!!」
これは30分は続く。絶対に。僕が保証する
いや、したくないけど
「現実の男は優柔不断すぎるんです!! 決めるとこ決めろや!!」
「はぁ」
「顔は仕方無いですよ!? 私はそんなトコを気にしません!!」
「はぁ」
「ただね! 中身の無い男なんか選抜にも値しないんですよ!!」
「はぁ」
「それに比べシュミゲーは!!」
「はぁ」
いつまで続くんだろう……。まだ5分かぁ……
「それは違うぞ、妹よ」
「な、何奴!?」
「フハハハハハハハハハハハ!!! 我こそは全国萌えシュミゲー選手権優勝者!!音々原 恋詞!!」
うわぁ、変人が増えた
「我が妹! 音々原 恋歌よ! 貴様の語るシュミゲーはまだまだ甘い!!」
「あ、甘いぃ!?」
「シュミゲーと現実を区分している時点で二流! 否! 三流だ!!」
「ば、馬鹿な!!」
「シュミゲーは現実なのだ! 幾千のパターンから成る画面の向こうの彼女こそ現実!! それが解らない貴様にシュミゲーを語る視覚はない!!!」
「そんな……、馬鹿な……!」
「現実に脳内召還できぬ内はシュミゲーを語るな! 愚か者!!」
「う……っ、ぐっ……!!」
「フハハハハハハハ!身の程を思い知ったかぁ!!」
「……兄さん」
「……何だ、愚妹よ」
「私に、シュミゲーの真髄を教えて欲しい。それこそが私の使命なの」
「……………甘くはないぞ」
「覚悟してる!!」
「それでこそ我が妹! さぁ行こう!! シュミゲーの次世代へと!!」
「はいっっ!!」
「あ、茶番終わりました?」
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「迷惑な兄弟だなぁ……」
「全くですよ! あの人達のせいでお客さんが引きまくってるんですからね!! ……でも、音々原さんが一番バイト上手いんだよなぁ……」
「悩み所だな」
「……悩み所と言えば! 土曜日ですよ土曜日!!」
「土曜日ぃ?」
「そうです! 実質的に一週間で最後の人なんですけど……、これが困った人でして」
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【土曜日】
「へぇー。教師がセクハラしてくるんだ?」
「そうなんです……。もう私、辛くって……」
「大丈夫だよ。君は何も悪くないんだ」
「私……!」
「今日はもう夜が遅い。続きはベットの上で……、ね?」
「べ、ベット……♥」
「お客さんを口説かないでください。久瀬内さん」
「そう言うなって、店長くん。彼女は辛いんだ……。慰めるのも必要だろう?」
この女たらしは久瀬内さん
出会いを求めてアルバイトを始めたらしいんだけど、むしろ出会いを作り出してる
顔は良いんだけど中身が女好きの変態。お客さんが女性だったら誰でも構わず手を出す困った人だ
「あの、合計で600円になります」
「いいさ。俺の給料から引いてくれ」
「い、良いんですか!?」
「君の笑顔に比べれば道端に転がる小石みたいな物さ……」
「は、はい………♥」
こんなドラマみたいな台詞、よく言えるなぁ
でもこの人が出勤してから女性客の割合がどっと増えるんだよね
経営的には助かってるけど……
「何してるんだ……、真奈美君」
「きゃっ……!」
「……どうしたんだい? 誰だ、この男は」
「わ、私にセクハラしてくる教師です……」
おっと、どうやら修羅場になってきたみたいだ
今レジに来たこの小太りの男性が久瀬内が口説いていたお客さんの教師らしい
セクハラしてくるって言うけど……、何だか納得してしまうなぁ
「せ、セクハラぁ!? 何を言ってるんだ! 私がそんなことをするはずがないだろう!!」
「だ、だっていつも私のお尻を触ってくるじゃないですか!!」
「あ、あれは教育的指導だ!!」
「嘘! いっつも変な息づかいで私に近付いてくるもの!! 他の子にだって近付いて! 私やその子が怒ったら退学をちらつかせて脅すじゃない!!」
「な、何てことを大声で言うんだね! 君は!!」
憤慨した教師は無理やりお客さんの手を掴む
嫌がる女性を店から引っ張り出そうと強引に引いていく
これは流石にまずいな
あのお客さんが、じゃない
教師が、だ
「おい、テメェ……。女の子を泣かせたな?」
「はぁ!?」
ゴッッッッッッ!!!
うーん。飛距離は10m……、かな
久瀬内さんの前で女の子に乱暴するなんて馬鹿な人だなぁ……
綺麗に吹っ飛んでいったよ
「大丈夫かい?」
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!!」
「良いってことさ。君を泣かせた馬鹿野郎はもう社会に出れないようにするから。他の子にも安心するように伝えるんだ」
「は、はい!!」
社会に出れない、って言うけれどこの人は本当にそれをやってしまう
この前、店に来た男性が女性に襲いかかろうとしたときこの人は鬼と化した
女性に対しては優しいんだよね。女性に対しては
「……あの、久瀬内さん?」
「何かな? 店長くん」
「あの教師はどうしましょう?」
「海にでも沈めておいてくれるかな?」
「……ご自分で、どうぞ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「男気のある良い奴じゃないか」
「うーん……、でも何だか納得できないんですよね」
「はっはっは! まぁ解らないでもないな!!」
「桜夢さんはどう思いますか?」
「ん? 何がだ」
「この店ですよ! 店長の僕が言うのも何ですけど変人の集まりじゃないですか!!」
「ふぅむ、それも一理ある。だけどな、咲坊……。世の中にはいろんな奴が居るモンだ。そういう奴等と接していかないと社会じゃ生き残れないぜ?」
「……そういうもの、でしょうか?」
「そういうものさ! いつか彼等が馬鹿やったらまともなお前が止めてやりな。それでこそ店長ってもんだろ?」
「………はい!!」
そうだ、僕がみんなをサポートしていけば良いんだ
父さんがいつ返ってくるか解らない
だけど、みんなを支えられるぐらい立派な店長になってやる!
桜夢さんも居るんだ!きっと上手くいくさ!
唯一、まともな僕がみんなを支えていこう!!
「……おい、見ろよ。あいつ」
「あぁ……。またオウムと話してるぜ……」
「あの店は変人ばっかりだな……」
読んでいただきありがとうございました