第5匹 慌てん坊猫
第5匹 慌てん坊猫
1
「痛ぅ、お前大丈夫か?」
木に衝突して何とか止まる事が出来たので、大惨事にはならずに済んだ。体中が痛いがすぐに引くだろうし…。問題は木に直撃したこの慌てん坊猫だ。
「す、すいません。転んだらそのまま転がっちゃって」
「いやいや、普通あんなスピードで転がらねえだろ。坂だってそんな急じゃなかっただろ?」
「へへ、ついうっかり」
「うっかりってお前な」
彼女は茶毛の猫だった。立ち上がると、落とした物を拾い、
「迷惑かけてすいませんでした」
走り去ってしまった。
「お前また走るところ…」
俺が注意するより早く、彼女はまた転んで、立て直した後そのまま去って行ってしまった。
「何だったんだあいつ…」
名前も言わなかったし、とんでもない慌てん坊猫だった。
「ん? 何か落としてったぞあいつ」
そんな彼女に呆れていると、足元に何かが落ちている事に気づいた。さっきの猫が落としたんだろうか?
「これは紙?」
2
「おいおい、本当にこんなに買う必要あったのか?」
王都からの帰り道、結局俺は夕暮れ時まで彼女に待たされ、帰りは大量の荷物を持たされていた。今日は本当に運が悪いよな俺…。しかも猫の手だから、掴みづらいし…。
「何言ってるのよ。これだけあれば、二ヶ月は生活出来るのよ」
「へぇ、でも何で二ヶ月分も一気に買う必要があるんだ?別に王都が遠いって訳じゃねえだろ」
「それは…」
「ん? 何ですぐに答えねえんだ。何か理由でもあるのか?」
「べ、別にないわよ。ただ…」
「ただ?」
「うんうん、やっぱりなんでもない」
「何だよそれ…」
でもこれ以上聞くと怒られそうなので、そこは自重する事にした。
それにしても…。
「なあチル」
「どうしたの?」
「これが何なのか分かるか?」
俺は先程拾った紙をチルに見せる。
「これ、どうしたの?」
「実はさっき…」
チルに先程の慌てん坊猫の事を説明する。
「ふーん」
するとチルは紙を眺めながら歩き出してしまった。
「おい、ちょっと待てよ」
俺は両手に掲げた荷物を担いで、慌てて追いかける。くそ、この荷物重すぎだろ。
「これってまさか…」
「何か分かったのか?俺にはさっぱり分からなかったけど」
「でもそんな訳じゃあ…」
「おーいチル。俺の声が聞こえてますか?」
「でもあり得ない話でも…」
「ちょっ、そんなに急ぐ必要ねえだろう」
チルの歩くスピードは更に増し、俺はヘトヘトになりながら彼女を追いかけた。
(あいつ、あんなに焦ってるけど、あの紙そんなに重要な事が書いてあったのか?)
内容を思い出してみるが、何が書いてあったのかさっぱり分からなかったが、一つだけ目立つ言葉があった。
『空中を浮遊せし光の物体』
あれは一体何だったのだろうか?
第6匹 静かな夜と騒がしい朝 へ続く