第41匹 それぞれの生きる道
第41匹 それぞれの生きる道
1
「どうしてですか? 今戻らなくてもいいじゃないですか?」
彼女の言うとおり、急ぐ必要はないのかもしれない。でも…。
「あのなムム。お前の気持ちは分かる。けどな」
「けどなんですか?」
「あっちで俺が戻ってくるのを待ってくれている人がいるんだ。それを放っておいて、俺はこの世界で生きていくにはいかないんだよ」
俺には俺の生きる道がある。猫としてではなく、人間として。まだ生きている者として。
「そんなの…分かっていますよ…
。ミケさんには…待ってくれている人が居るのを…それでも私は…ミケさんに居てほしいんですよ…
わがままなのは分かっていても私には…私には…ミケさんが必要なんです!」
「ムム…」
ここまで言われてしまうと、どうも彼女が可哀想になってしまう。それでも俺は心は折れない。
「お前の気持ちはすごく伝わってきた。でもな、さっきも言った通り俺やユキもまだ生きている。戻ってくるのを待っている人がいる。にゃんこワールドでの生活もいいかもしれない。でも俺は…」
ここで言葉を止めてしまう。これ以上何か言ったら、彼女を余計傷つけてしまう様で、怖かったから…。
「もう覆す事はないんですね?」
「ああ」
それを読み取ったのか、諦めた様にムムは言った。
「分かりました…。その代わり、一つ約束してください」
「約束?」
「またこの世界に戻ってくるって、約束してください」
「またこの世界にか…」
まあ、悪くない。可能なのかは分からないけど。
「分かった、約束する」
「絶対ですよ?」
「ああ」
俺達は小さく指きりをした。
2
ムムが寝床につき、俺が一人になった深夜。チルが自分の部屋から出てきた。
「あ、チル…」
声をかけるが無視をされる。その代わりに彼女は小さく呟いた。
「嘘つき」
「お、おい!」
彼女は俺を一切無視して、すぐに部屋に戻ってしまった。
(嘘つきって…)
確かに嘘はついてしまったけど、そんなに怒らなくてもいいのにどうして…。
(やっぱりあいつもムムと同じで…)
ムムは何とか納得してくれたけど、チルは駄目なのか…。
(ちゃんとお別れを言えそうにないな…)
こんな悲しい事なんてあるのだろうか?
長い間一緒だった彼女と、こんなあっさりさようならしていいのだろうか?
家族なのにこのままでいいのだろうか?
俺は…このままでいいのだろうか?
(何か俺が居た証でも残しておけば、少しでもあいつは楽になれるかな?)
俺がここに居た証を残す。
俺が彼女に出来る最初で最後のプレゼント。俺にはそれが出来るのだろうか?分からない。それでも…
(やるしかないな)
俺は眠い目を擦りながら、明日の為にとある作業に取り掛かる事にした。
(チル…)
第42匹 また会えるその日まで へ続く




