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Cat's World  作者: りょう
第2部
40/49

第39匹 どんなに離れていても家族

第39匹 どんなに離れていても家族


1

二日後、俺はチルを引き連れてある場所へと向かった。そこは…。

「来たな、チル、ミケ」

「おかえりなさい、二匹とも」

それはチルが本来戻るべき場所、そして俺の親がいる場所でもある。

「お父さん、お母さん…」

「少し遅れたけど、一ヶ月前に出来なかった話の続きをしに来たんだけど、いいよな?」

「当たり前じゃない。まだしっかり話ししてないもの」

一ヶ月前はブラックキャット王国の襲撃により、中断させられてしまった話の続き。十五年の空白の話。

「聞きたい事はどんどん聞いてくれ」

「じゃあ…」

チルが一番最初に聞いたこと、それは…。

「私が元は人間で、ミケとは兄妹だったのは本当なの? そしてミケだけは今も生きているの?」

やっぱりそれか…。前に少しだけ記憶を取り戻したとは言っていたけど、やはり気になるのだろう。

「それは事実だ。今ここに居る四匹は皆、家族だった。私とリーシャは人間の頃の記憶がしっかり残っている。ミケ、お前がこの世界に来てしまった時は驚いたよ。何があったんだ?」

「それは…」

自分も十五年前と同じような目にあった、とは言えない。何でか分からないけど話せない。

「話したくないなら構わないが、お前はまだ生きているって本当なのか?」

「ああ。一度だけ元の世界に戻ってる」

「どうやってもう一度この世界に戻ってきた?」

「詳しくは分からない。でもひたすら願ったら、戻ってこれたんだ。この世界に」

「なるほどな…」

うーん、話しづらいな。久しぶりにゆっくり話が出来るのに。家族って、こんなんだっけ?

あ、でも俺しっかり話さなきゃいけない事があるんだった。

「あのさ父さん、母さん、チル」

「ん? どうした?」

「どうしたの?」

「何?」

それは十五年間胸にしまい続けた言葉。

「ごめんなさい」

「え? どうして謝るの?」

2

「十五年前、俺はまだ小さくてあの事件の日も何もできなかった。男なのに家族を守る事ができなくて、怖くて、隠れ続けていた。悲鳴とか全部耳を塞いで聞こえないようにしていた。皆が酷い目にあっている間、俺は押入れの隅で隠れて、自分だけ難を逃れてしまった。家族もろくに守れなくて…、終いには皆殺しなんて…。馬鹿だよ」

「ミケ…」

俺はただ謝りたかった。何にもできなかったこと、逃げてしまったこと。自分だけが生き残ってしまったことを…。

「謝らなくていいんだぞ優斗」

「どうして? 俺は皆殺しにしたんだぞ!」

「そんな事私も母さんも、一度も思ったことなんてない。むしろ私達が謝るべきなんだよ。お前だけ残して悪かったって」

「そ、そんな事言われても…。俺は…」

「私達はあなたが今も生きていることに喜んでいるのですよ。ですから、恨んでなんかいませんからね」

「父さん、母さん…」

俺は過去に囚われすぎていたのか? もしかしてこの世界に来たのも、俺がいつまでも後悔をしていたから。前に進もうとしていなかったから…。俺は誰かに背中を押してもらいたかったんだ。多分…

「それにお前は、もうすぐこの世界を去って、元の人間生活に戻るんだろ? 私達がその背中を押さないでどうする」

「え?」

チルが驚きの声をあげる。

やっぱり俺の心、読まれていたんだ。俺が今日ここに来た真の目的は、父さんと母さんに謝って、最後にちゃんとお別れをすることだった。だから本当は、この世界の秘密を知るとか何とかとか、別にどうでも良かった。ただ俺は謝りたかった。それだけ…。

「いつ帰るんだ?」

「五日後ぐらい」

「そうか…。じゃあ次会うことはないか…」

「まあそうなるな、多分」

「だったらこの世界から発つ一人の家族に、言葉を捧げよう」

父さんは上を仰ぎ見て、高らかに言った。

「どんなに離れていても、お前と私達は家族だ。いつかまた、会えるかもしれない。常に信じる心を胸に生き続けてくれ。私達も見守る。だから…」

父さんはいつの間にか涙を流していた。母さんも。親として子供と別れるのがどれだけ辛いのかは分からない。ただ…。

「前を向き、強い志を持つ人間として生きてくれ」

親はいつまでたっても、俺達子供にとって大きな存在なんだ。

「ありがとう…、そしてさようなら。父さん、母さん」

第40匹お別れの日の前夜 へ続く

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