第3匹 人間だったあの頃
第3匹 人間だったあの頃
1
にゃんこワールドにやって来てから数日経ったある日の晩、俺はある夢を見た。
『おーいxx、さっさと来いよ』
それは人間だった頃の記憶。
『xx君の将来の夢ってなんなの?』
皆俺の名前を呼んでいるようだが、どうしても自分の名前が分からない。そのため、変な言葉でしか聞こえない。
『xx』
『xx君』
俺を呼ぶ懐かしい声。その主が誰なのかさえ分からない。だけどそれは、俺にとってかけがえのない親友だったに違いないと思う。だから…。
何で俺は死んじまったんだよ…。
2
「ふーん、人間だった頃の夢ね…」
朝、その事をチルに話してみた。
「私は元々猫だから、そういう話は分からないけど充実してたの?」
「ああ。悪くない人生だったらしい」
夢をもう一度思い出してみる限り、そこそこ悪くない人生だったらしい。完璧には覚えていないとはいえ、少しだけ残っているのはありがたい。ただ一つだけ気がかりなのは、夢の最後に聞いた言葉。
『お願い…戻って…』
戻ってとは果たしてどういう事なのだろうか?俺が死んだからなのだろうか?それなら分かる気がするかもしれないが、そこら辺はさっぱり分からないが…。
「でもそんな夢だけで、充実していたと言えるの?」
「まあ、死んでいるという時点で幸せとは言えないかもな。家族や友人を悲しませているんだからな」
「そうね」
そう言えば俺の家族はどんなんだったのだろうか?兄弟姉妹は居たのだろうか?俺が死んで家族はどう思っているのだろうか…。勿論悲しんでいるに決まっている…。でも俺にはどうする事も…。
「ミケ、どうしたの? ご飯食べないの?」
「あ、ああ。ごめん…」
チルは親の事で悩んでいるみたいだし、この世界にも、親が居ない子は沢山いるだろう。勿論俺も…。人は死んだ後じゃあ何にもできない。できるのは後悔だけ…。それは本当に寂しくて悲しい事実…。
「ちょっとー、早く食べてよ。今日は少し出かけるのよ。」
「そうだった。悪い悪い。」
「全く…」
でも俺は今、この世界で生きている。猫としてだが、その生活も徐々に慣れてきた。
「早くしなさいよ。あと一分で食べ終わりなさい」
「何て無茶な事を言うんだ」
「あなたがさっさと食べないからいけないんでしょ」
多少厳しいネコが一匹、俺の目の前にいるけど、彼女が居なかったら俺はこの世界でどうなっていたのだろうか?
そんな事は想像した事ないけど…。
第4匹 王と王女へ続く