第28匹 もう一度あの場所へ
第28匹 もう一度あの場所へ
1
「じゃあお前は、その世界で優紀に出会ったんだな?」
「ああ」
「それでもう一度行くのか?」
「ああ」
「どうやって行くんだよ?」
「それは…」
確かに今のままじゃあ行けない。でも何で優紀は行けたんだ?
「優紀はお前が意識不明になってから、ずっと様子が変だった。恋人であるお前に、ずっと呼びかけていたんだよ。戻ってきてって」
そうか、分かったぞ。
俺の側でずっと眠っている女性、つまり優紀はここで願っていたんだ。会いたいって。という事はもしかしたら…。
「もしかしたら優紀のその想いが、俺の居る世界に導いてくれたのかもしれない。彼女の意識体だけがこの世界に導かれ、猫として形になった」
「あり得ない話かもしれないが、もしかしたらそうなのかもな」
「じゃあ…」
俺はゆっくり瞼を閉じる。もう一度あの場所に行くなら、今のタイミングしかない。誰も俺が帰ってきた事に気づいていない今しか。
「優斗、お前まさか…」
「ああ。俺は優紀に会いたいって想ってみる。そうすればもう一度行けるかもしれない。現に俺の意識だけがあの世界に行けたんだからな」
「必ず帰ってこいよ」
「必ず帰ってくる。優紀も連れてな」
音が聞こえなくなる。拓也も黙ったのだろう。さて、行きますか。
俺は優紀やチルの事を想った。もう一度会いたい、もう一度あの場所に行きたいと。
頼む、行ってくれ…。
2
どの位経っただろうか?先ほどから草の揺れる音しか聞こえてこない。という事はまさか…。
俺はゆっくり瞼を開く。
(やっぱり…)
俺は戻ってきたんだ。にゃんこワールドに。
(身体はあの時のままか…)
俺はまた三毛猫だった。流石に刺された傷はない。
(駄目だ、身体が重い)
身体を動かせずにいると、近くから草を掻き分ける音が聞こえた。
(誰かくる)
とりあえず音も出さずに、空を眺めていると誰かがやって来た。そいつは…。
「う、嘘…。三毛猫?でもあり得ない」
俺が二ヶ月ほどお世話になった猫。
「チルか?」
「その声ってまさか…」
誰よりも大切だった人。
「ミケ? ミケなの!」
十五年前守れなかった人が猫になった姿。
「ああ」
「ミケ!!」
チルだった。
チルは俺だと分かるとすぐに抱きついてきた。こいつ、泣いてやがる…。
「ったく、泣いてんじゃねえよ」
「だって…だって…、あの時消えたから、本当に死んだんだと思って…」
「チル…」
そういうのは、本当にお前らしいよ。
「ただいま、チル」
「お帰りなさい、ミケ」
俺の言葉にチルは、涙を流しながらも精一杯の笑顔で答えた。
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