第13匹 記憶の底
第13匹 記憶の底
1
家に帰るとチルを見た二人は色々聞いてきたが、また後で説明すると言って、スルーした。
「ミケ…、今日はずっと側にいて欲しい」
「分かったよ」
チルを彼女の部屋のベッドまで運び、俺は近くにあった椅子に腰掛けた。
「なあチル、一つ聞いていいか?」
「何?」
「お前は昨日、俺の話を聞いてどう思った?」
昨日チルに俺は、蘇ってきた記憶の事を話した。それはとても残酷な話で…。
「チル?」
返事がないので呼びかけてみるが、返答がない。
「寝たか…」
あれだけ泣いたんだから仕方がない。俺は聞くのを諦め、目を閉じた。
目の前が真っ暗になり、今は時計の音しか聞こえてこない。すごく静かだ…。
(また今日も見るのか…、俺自身の記憶を…)
寝るのが怖かった。思い出したくない事ばかりを思い出しそうで。果たしてこの記憶の底には何があるのだろうか?
(ま、今日は疲れたし…いい…か…)
俺は椅子に座ったまま眠りについた。
2
目を開くと俺の目の前には、血まみれで倒れている人が三人いる。そして、俺の片手には血まみれの包丁。
(俺が…殺したのか?)
よく見ると俺の体はまだ幼い。本当に俺が殺したのか?
「××、一体何があったの? こ、これは…」
「とりあえずこっちに来なさい」
数秒後、大人達が部屋に入って来る。幼い俺は近所の人に連れられて、どこかへ向かう。病院?それとも…。
そこまでは分からない。ただ…。
「あの子、家族を殺されちゃったんだって。可哀想に…」
「そうね…」
先程倒れていたのが、俺の家族という事。そして、その家族は誰かの手によって殺された。
これが俺が一番最初に見た夢である。
3
その後俺は施設みたいな場所に預けられた、ただそこで俺は、家族を失ったショックで、完全に心を閉ざしてしまっていた。
そんな俺を救ってくれたのが…。
「ねえ君、私達と一緒に遊ぼう」
「一緒に俺達と遊ぼうぜ」
優紀という女の子と拓也という少年だった。二人との出会いは心を閉ざしてしまっていた俺に救いの手を差し伸べてくれた。毎日毎日遊んでいる内に、少しずつ心を開き、小学生になる頃には完全に心を開いていた。
「そういえばあなたの名前、私聞いてなかったな」
「名前?」
「うん。教えてくれない?」
「僕の名前は…」
小学生なので、まだ僕口調で喋る俺。そうだ、俺の名前は…
「僕の名前は…石川優斗」
優斗って名前だったんだ。
第14匹 今を生きる へ続く




