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「ここは・・・?」
僕はいつも通り目を覚ました。
いつも通りの朝。
・・・じゃ、ないな。
いつもの場所と違うな・・・。
真っ白でふわふわしてて・・・。
違和感がある・・・。
「起きたのか?」
聞こえたのは男の人の声だった。
黒い長めの髪の優しそうな人だった。
そうか、僕拾われたのか。
拾われるのは、初めてだな・・・。
「どうした?」
そんなこと聞かれてもな・・・。
「僕の言葉なんて分からないのに・・・」
だって僕は猫だから。
人間は僕らの言葉はわからないでしょ?
僕らには人間の言葉分かるんだけど。
「いや、わかるよ」
「え?」
なんで?
僕らの言葉が理解できる人間なんていないはず・・・。
「あぁ・・・、お前ここに来た理由分かってないんだな」
その男は頭をかきながら言った。
「理由って・・・?」
僕はただ拾われただけなんじゃ・・・。
「お前はな・・・」
そういって口を閉じて、考えるようなしぐさを見せた。
「僕は・・・どうしてここに来たの?」
そんなに大変なことだったのかな・・・?
その男はまたしばらく考えてから、口を開いた。
「お前はな・・・・・・死んだんだよ」
「・・・え?」
死んだ・・・?
「僕死んでるの?」
「あぁ、俺も死んでる。ここは死者の世界なんだよ」
死者の世界・・・。
なんだか、信じられないな。
「じゃあ、ここは天国なの?」
昔人間がこんなことを言っていた。
死んだら天国か地獄に行くって。
悪いことをしたら地獄に行くって。
「ここは天国だよ。みんな最初はここに送られるんだ」
「みんな?」
「そう、死んだやつ全員だ。送られてきた1週間後に審査が行われるんだ」
審査?
何を審査されるんだろう。
「審査ってのはな、生きてたときのことを聞かれる。そこで引っかかったやつは地獄に落とされるんだ。まぁ、この天国にいる資格があるかどうかを調べるって感じだな」
「地獄・・・」
「お前も1週間後に審査があるからな。ちなみに猫には猫の質問が用意されてるらしいぞ」
僕・・・何か悪いことしたっけ?
してないと思うんだけどな。
地獄って怖いとこなんだもんね。
行きたくないもんね。
「あ、あと・・・この世界じゃ全員が神様と同じ形の姿になるんだ。人間は神様が自分たちに似せて作ったから、変わらないんだよ」
そういわれて自分の手を見る。
そこには、色が白くて細い人間の手があった。
「なんだったら鏡見てみるか?」
そういって、手鏡を渡される。
恐る恐る中をのぞいてみると、そこには男の子がいた。
「これが・・・僕・・・」
見た目は完全に人間だったけど、髪の色は白の中に茶色が混じっている、生きてた時と変わらない色だった。
「見た目と言葉が人間になるんだよ。言葉はどこの国の人とも通じるようになってる」
「ここにも国はあるの?」
「あぁ、天国は地球と同じ形をしてるんだ」
じゃあここは僕の住んでたとこと同じとこにいるのかな?
「ちなみに、送られるのは自分の死んだ場所だ。基本的に意識がある状態で送られてくるんだけど、お前寝たまんまだったから、思わず連れてきたんだよ」
僕寝てる時に死んじゃったのかな?
覚えてないな・・・。
「あ、そうだ!!ここ見てごらん」
そういって金色の大きな器を渡された。
人間の形に慣れなくてうまく持てない。
「ほら、持っててやるから」
男の人が持ってる器の中をのぞく。
「これは・・・」
見たことのある場所だった。
「これは、生者の世界を映す器だ。ここは・・・お前が死んだ場所だ」
「ここが・・・」
ここが僕の死んだ場所。
いつもの寝床の路地裏だった。
「・・・なんで僕の死んだ場所なのに、僕がいないの?」
「お前は・・・ここだ」
そういって器の中に手を入れて、何かの文字を書いた。
男の人の手が器から出て来てから、中をのぞくと場所が変わっていた。
ここも見たことがあった。
生きているときにたまに遊びに行っていた、森と呼ばれていた場所だ。
そこには一人の女の子がいた。
その前の地面は穴が掘られていて・・・、その中に僕がいた。
「僕だ・・・」
女の子はしばらく僕を見てから土をかけ始めた。
「・・・この子は何をしてるの?」
なんで僕は穴の中に入れられて、土をかけられているんだろう・・・。
「これは、人間の儀式みたいなものだ。死んだ者を埋めて・・・埋葬って言葉は知ってるか?」
『まいそう』なんて言葉聞いたことない・・・。
男の人の顔を見て首を振る。
「そうか・・・。埋葬ってのはな・・・なんていえばいいのかな。死者に敬意をあらわすんだよ。敬意ってわかるか?」
けいい・・・。
聞いたことある。
黙って頷く。
「嬉しいな・・・」
「え?」
「僕は野良猫だったから・・・。こんなことしてもらって嬉しい・・・」
男の人は少し笑って、そうか、と言った。
もう一度器の中をのぞくと、女の子が帰るとこだった。
「あ・・・」
「どうした?」
この子は・・・。
「この子・・・、いつもご飯くれたんだ・・・。いつも遊んでくれたんだ・・・」
僕の、唯一の友達・・・。
きっと、ご飯をあげに路地裏に来た時に、僕を見つけたんだろう。
その女の子は泣いていた。
僕のために、泣いていた。
僕も、泣いていた。
初めて、自分が死んだことを悔やんだ。