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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第一曲 一日目
8/55

(7) 風林火山

「――――……貴方は、何者?」

 唄は目の前にいる青年に向かって語りかける。長身の赤いスーツを着ている赤髪の青年は、人の良さそうな笑みを浮かべている。その右手の上には、赤い火の玉があった。

 それを見て、唄はため息をつく。


 あの後、唄はヒカリと別れると、自分の家の中に入ろうとした。

 だが、その時後ろから声をかけられた。

 振り向くと、今目の前にいる青年が立っており「ちょっと時間よろしいですか」と尋ねられ、今――唄とヒカリの家が向かい合っている真ん中の道路で、二人は向かい合っていた。


「その火の玉……。もしかして、夕方にあった琥珀とかいう子の仲間みたいなものかしら?」

 唄はメガネの奥の瞳で、なぜか青年のだしている火の玉を睨みつけながらいう。

 人の良さそうな笑みを浮かべたまま、二十歳過ぎたばかりというような風貌の青年は、ゆっくりと言葉を発した。

「ええ。よくわかりましたね。ワタシは、『風林火山』の瓦解陽性と申します。以後お見知りおきを。……怪盗メロディー――いや、野崎唄さん?」

「なっ――!?」

 唄は目を大きく見開く。

 ――――なぜ、この人は自分の名前を知っているのだろうか。

 警戒するかのように、唄は今一度陽性と名乗った青年を睨みつける。

 彼は、今だ変わらぬ笑みを浮かべていた。

「そんなに警戒をしないでください。別に、ワタシはアナタが怪盗メロディーだからといって、警察に突き出す気はないのですから。――ただ、今日は一つだけ言っておきたいことがあるので、それを言いにきただけなんです」

 あくまで穏やかに陽性は言う。

「……言いたいこと?」

「はい、そうです」

「何よ、それ」

「そうですね、一言で言えば――――『虹色のダイヤモンド』を狙うのはやめておきなさい。――――ということです」

 今度ばかりは、唄は目を大きく見開くだけでなく、いつでも逃げられるよう――ヒカリに伝えられるように構えた。

 それを見て陽性は苦笑すると、火の玉を消した。そして口を開く。

「これは、すぐワタシのことを悟っていただく為に、点けていていただけです。アナタに害を与えるつもりはありません」

「信じられないわ……」

「そう、ですか。。まあいいでしょう。――ワタシは、伝えることは伝えたので帰らせていただきます」

「はぁ! 何よ、貴方もさっきの琥珀(やつ)も、いきなり来ていきなり帰るとか自分勝手すぎるったらありゃしないわ!」

 普段の冷静さはどこへやら、唄は大きく声を張り上げた。

 それに、陽性は少し悲しい顔をする。だがすぐ笑みを浮かべると、彼は唄に背を向けた。そのまま歩き出す。

 そして、

「もう一度、言っておきます。『虹色のダイヤモンド』は、盗まないほうがいいですよ」

 低い声で諭すように言うと、暗闇の中に消えていった。

 その後姿の残像を、唄は敵を見るかのように睨みつける。

(なぜ、私が狙っている宝石がわかったのかしら)



    ◇◆◇



 町のどこかにある古い昔のような造りをした屋敷。その一室に、三人の人物が集っていた。

 一人は御簾(みす)の中に、一人はその前に跪き、一人は壁に寄りかかっている。

 その内の一人、御簾の前に跪いている赤髪の青年が口を開いた。

「――やはり、怪盗メロディーは『虹色のダイヤモンド』を狙っているようです」

「そう、なのか……」

 透き通る少女とも女性ともつかない声が響いた。御簾に映る女性のような影が、少し俯いたかのように動く。だが、すぐ顔を上げたのかまた影が動いた。

「それならしょうがない。本当は嫌なのじゃが……陽性、彼女等が『虹色のダイヤモンド』に手を触れぬよう、阻止するのじゃ!」

「了解、いたしました」

 威厳のある気高いその声に、赤髪の青年――陽性は静かな声で言う。

「では、白亜様。ワタシはこれで」

 そして、そう言うとその場に立ち上がった。そして女性――白亜に背を向けると、部屋の入り口に向かって行った。

 そんな光景を冷ややかな灰色の目で見てた黄色の髪の少年――琥珀は、陽性の背中に向かって冷たい言葉を吐く。

「それだけでいいのか。もっと姫様と話していたいとは思わないのか。なんせ貴様はッ」

「琥珀。何を言っているんですか。あまり馬鹿げたことを言わないでください」

 振り向かず、陽性は冷たい声を放った。

 琥珀は唇をきつく噛み悔しそうな顔をすると、そっぽを向く。

「まあ、ボクには関係のないことだからな。どうでもいい」

 そしてそう吐き捨てると、陽性の横を通り過ぎ、彼の顔を一瞥すると部屋の外へ出て行った。

(なんだ、アイツ。澄ました顔をしやがってッ)

 その後姿を見て、陽性は深いため息をつく。そして、振り向き白亜に向かって軽く一礼すると、琥珀の後を追うかのように部屋の外に出て行く。


 一人残された白亜は、そんな二人の後姿を、とても悲しそうな目で見ていた。

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