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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第一曲 一日目
6/55

(5) 陰陽師・上

「ごめんなさい。遅れてしまったわ」

 謝罪の言葉を述べながら、唄は部屋の中に入って行く。そしてそのままヒカリの前を横切って水練の近くに行くと、彼女の見ているパソコンの画面を覗き込んだ。

 そこには、虹色に輝く宝石が映っていた。その横に、ご丁寧に所有者をはじめとした説明文らしきものが載っている。

「すぐ見つかったで、これ。あんまり難しくなかったから、簡単やったわァ」

「ふ~ん。ご丁寧に、こんな詳しく。……いつもありがとう、水練」

「かまわん。これがあたしの役割や。それに、今回はあまりにも早く終わったものやから、簡単だったんよ」

 あまり感情のこもっていない声で感謝の言葉を口にする唄に、水練はめんどくさそうにため息をつく。

 少しの間宝石を見ていた唄は、何かを決意したかのように頷くと、水練たちに向き直った。

「やっぱり、次の獲物はこれで決まりよ。――そうね、ちょうど土曜日、確か満月だったわよね。その日に、盗みに入ろうと思うわ」

「え? 次の獲物って、何?」

 何も聞かされていないのか、そう問うてくるヒカリを一瞥すると。唄は風羽や水練を見て微笑む。


「ちゃんと準備をしておきなさい。次は、手ごわいわよ!」



    ◇◆◇



「――――馬鹿な者たちだ。自分たちに危機が迫っていることすら知らず、のん気にお喋りをして……」


 木の枝に座っている少年が、口元に笑みを浮かべた。彼の肩には、四羽のカラスが乗っている。

 少年は、その内の一羽を撫でながら呟いた。

「お前たちは、ボクが合図したら。あいつらの所へいくんだよ。でも、これはただの小手調べだから、無理はするな。……まあ、お前らには、あいつらを倒すのは無理だけどね」

 慈しむかのように少年は囁く。だが、その瞳は、ある廃墟の一室に向けられていた。

 そして、少年は何かを待つかのように空を見ると、口を開いた。


「行っておいで、ボクの〝式〟」


 その言葉に反応して、四羽のカラスが廃墟の一室に向かって行く――。



    ◇◆◇



「ん? なんや、唄もうかえるんか?」

「ええ、もうようはないでしょ」

 扉の方に向かう唄に気づき、水練が声をかけてきた。唄はそれにそっけなく答える。

「私はこれでも忙しいのよ」

「へぇ。全然忙しそうには、見えへんけどなァ」

 どこが忙しいんや。

 水練はパソコンの画面を見ながらわざとらしくため息をつく。

 その時、


 ――――――――――バッリーンッ!


 大きな音がして、窓が割れた。


「っ、なに!」

 唄は慌ててそちらを見る。

 そこには、黒いサングラスをかけ黒いスーツを見に纏った四人の男がいた。

「誰だい?」

 そういいながら、今までヒカリと喋っていた――といってもヒカリが一方的に喋っていただけだが――風羽が、男達を見ながら唄に近寄ってきた。その後ろから、金魚の糞みたくヒカリが付いてくる。

 話しかけられた男たちは何も答えない。ただ夢遊病者のように、表情の伺えないサングラスを掛けた顔を向けてくるだけだ。

 風羽がため息をつく。

「何も答える気はない、か……」

「どうするんだ、唄? こいつら何か手に物騒なもん持ってるぜ」

 ヒカリの言葉通り、男たちは手にそれぞれ警防らしきものを持っている。

「……この人たち、私たちがメロディーだって知ってるんじゃないの」

「だったら、放っておけないよね、唄」

「風羽、何をする気?」

「とりあえず――捕まえようかと」

 そういうや、風羽が一歩前に出て、男たちに歩み寄って行く。

 それを見た男たちは、無言で風羽ににじり寄ってきた。

 風羽は、それを冷静に見すえると、徐に右手を上げて何かを呟く。


「――――聖なる風よ、我に力を貸してくれたまえ。我は風の使い手――喜多野風羽なり……」


 すると、割れた窓から、刹那――風が中に入ってくると、風羽の右手に集まってきた。それを見て、ゆっくりと右手を前に向けると、風羽は何かを言う。

 そして、

「……終了だ」

 その声と同時に、渦巻いた風が男たちに向かって行った。その風は、男たちを薙ぎ倒すと、どこかに消え去った。

 それを見定めると、風羽は唄たちが居る方に向き直り、メガネを直しながら口を開く。

「終わりだよ。あっけなさすぎて、つまらなッ」

「まだや! ……ハァ!」

 その時、風羽の言葉を水練が途中で遮った。いつの間にか手に持っていた、水でできた鞭らしきものを横に薙ぎ払う。

 あっという間の出来事だ。

 男たちは風羽に手を伸ばすところだったらしいが、水練の薙ぎ払った鞭によって、倒れる。

 そしれ――――小さな爆発音と共に、四枚の紙に姿を変えた。

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