(4) もう一人の仲間
暗い室内の中にある水色のラジカセから、バイオリンの美しい旋律が流れだす。
この曲は、怪盗メロディーがよく犯行現場に残していく、彼女が作曲した曲。彼女を支援するファンが独自に作詞したものもあるが、そんなごたごたのあるのよりも、詞のないそのままの曲が自分は好きだ。
世間でメロディーは、とても美しい少女としてファンがいたりして、ネット上ではサークルとかも建ち上げられている。――――が、その実体はただの地味少女。怪盗メロディーのときの彼女は綺麗だが、野崎唄のときの彼女は、自分よりも劣っている。
――小さな豆電球からでる光のもとで、口元を綻ばせて七星水練は微笑んだ。
「……はぁ。この曲、やっぱり嫌いだわぁ。聞いていて、イライラしてくる気がする」
水練は、スカイブルーの瞳を煌かせ、パソコンに目をやる。
そこには煌く宝石が映しだされていた。
(なんであたしがやらへんといかんのや。自分でやればええのに)
ため息をつきながらも、水練はパソコンの操作を続ける。そのとき-―。
「お、きたみたいやね。一人で退屈しとったところや。早く、上がってきてくれへんかな」
鉄製の階段から、二人ぐらいの足音が聞こえてきた。その足音の主は、限りなく水練の部屋に向かってきている。
――――たぶん、あいつらだろう。
コンコンッとドアがノックされた。水練は何の躊躇いもなく返事する。
「入ってきてええよ。鍵はいつも開いてるんやから」
それに答え、二人の人物が中に入ってきた。
「…………」
無言の状態で入ってきたのは風羽。相変わらず黒っぽい服を着て、感情の浮かんでいない無表情のまま入ってくる。
「やあ、水練。元気だったか?」
その後ろから元気いっぱいで、うざいぐらいのにこやかな表情で入って来たのはヒカリ。風羽とは対照的で、赤色のTシャツという派手な格好をしている。
そのヒカリを見て、水練は大きくため息をついた。
「風羽、なぜヒカリがいるんや? あと、唄は一緒ではあらへんのか?」
「な、なんだよ。俺がいちゃわりぃのか? これでも、一応お前らの仲間だぜ!」
自慢そうに胸を張りながらヒカリが答えてくるが、水練はそれを無視すると、いまだ無言の風羽を見つめる。彼はめんどくさそうにため息をつくと、口を開いた。
「……ああ。唄は一緒じゃないよ。別に、いつも彼女と一緒にいるわけではないからね。後から繰るんじゃないのかな」
自分には関係のないことだ、とでもいうように風羽は答える。
それを聞き、水練はまた大きなため息をついた。
◇◆◇
「やっと、着いたわね。――ったく、父さんたちのせいで、いつもより時間がかかってしまったわ」
一棟の廃墟マンションの前に立ち唄は呟くと、少し乱れている息を整えながら、目の前にあるマンションを見上げた。
前は綺麗なつくりをしていたのだろう。いまでは、その姿もなれ果てて、ところどころ亀裂があったり、黒ずんでいたりする。窓にはまっている鉄格子もところどころ折れ、窓ガラスはほとんど叩き割られている。
「……ふぅ」
とため息をつくと、唄は鉄製の階段を上っていく。
向かうところは三階の一番右端。
誰も住むことなく何年も忘れ去られてしまったかのようなマンションは、鉄製の階段もボロボロだ。今でも崩れそうで危なっかしい。――が、唄は軽々と登っていく。
そして、一つのくすんだ茶色のドアの前に立ち、ノブに手を置くとドアをあける。
――――ギシシッ。
と音がしてドアが開け放たれると、三つの見知った顔に出迎えられた。どうやら、唄が来ることがわかっていたみたいだ。
「やぁ、遅かったね」
いつもの無表情で言ってきたのは風羽。
「ヤッホー、唄!」
その隣でうざいぐらいニコニコな笑顔で言ってきたのはヒカリ。
そして、
「ああ、やときたんか」
その奥、回転椅子をくるりと回してこちらを見ている、水色の長い髪の毛をウェーブさせ、無地の黒いワンピースの上から丈の長い白衣を着た少女は、透き通る水色の瞳を煌かせ、ニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべていた。
彼女の名前は、七星水練。
唄の仕事上のパートナーで、自称天才ハッカー。
学校に通っていない不登校少女なのに、パソコンの知識だけは豊富である彼女は、今日もキーボードから手を離していなかった――。