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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第五曲 五日目
46/55

(17) 真実を

「貴様等ッ! 待て!」

 シルフと灰色の狼がある部屋の中に入った瞬間、琥珀が顔面を蒼白させて叫んだ。彼はそのまま相対している風羽のことを忘れてしまったかのように、その部屋に慌てて入っていく。

 睨みあっていた風羽は一人残されて、緊張状態が解けてしまい軽くため息をつく。

 同時に、後ろから足音がした。

 慌てて後ろを振り向くと、風羽はそこにいる顔ぶれに驚いた。

「喜多野風羽、じゃま」

 巫女服を着た水鶏が、廊下の真ん中に立っていた風羽に不機嫌そうな顔を向けてきた。

 その後ろからは、ヒカリ、唄、陽性が続けて歩いてくる。

 冷静さを取り繕った風羽は、水鶏に道を譲るとその後ろにいるヒカリに声をかけた。

「いったいどうしたんだい?」

「え、いや、なんかいろいろあってな。白亜とか言う人に会わせてもらうことになった」

「白亜……白銀礼亜じゃないのかい?」

「ん? 知らねぇ」

「何故、貴方がその名前を知っているですか?」

 ヒカリと話していると、唄の後ろにいた陽性が困ったような表情で聞いてきた。

「知り合いに情報通がいてね。二年前、幻想学園からある人物のデータが消えたことを教えてもらったんだ。その人物の名前が、〝白銀礼亜〟という人だということもね」

「……そうですね」

 陽性はそう言うと口を噤んだ。本当はその人について別の情報も得ていたが、とくにいう必要もないだろうから風羽は何も言わなかった。

「何ぐずぐずしているのよ。早く行くよ」

 先頭に立っている水鶏が急かしてくる。

「そうね。もう夜も遅くなっているし、早く〝真実〟を教えてもらって帰りましょう」

 眠そうに欠伸をしている唄がヒカリを追い越すと水鶏の後に続いた。ヒカリが「おう」といいながら唄の後についていく。「すみませんね」となぜか謝りながら陽性も続いた。

 何が何やらわからないが、ため息をつくと風羽もそのあとについていく。

 水鶏は、先ほど琥珀が消えた部屋に入っていった。



    ◇



 シルフはしつこく追いかけてくる狼に辟易しながらも、『虹色のダイヤモンド』の気配のする部屋の中に入っていった。

 後ろから少年の金切り声が聞こえてきた気がしたが構わない。狼の攻撃を避けつつ、『虹色のダイヤモンド』の〝気配〟に近づいていく。

 その部屋はとても広かった。畳で敷き詰められたその部屋の奥には、平安時代の貴族とかがいそうな豪華な御簾がある。その御簾の中から〝気配〟が漂っていた。

 シルフは笑みを浮かべると、狼に向かって強風を吹き付けて、その御簾の裏に入っていく。

 瞬間、思わず息を飲んだ。

「〝八又〟! いったん戻れ!」

 後ろかの声が耳に入らないほど、シルフはそこにいた人物に目を惹かれていた。

 そこには、長く白い髪の毛に、しばらく日の光に当たっていないだろう白い肌、十二単を纏っている少女がいた。高校生ぐらいだろうか。儚げな顔をした少女は、余りにも人間には見えないような風貌をしていた。

「貴女は……」

「そこから出ろ! そこは白亜様のッ!」

「シルフ様。いったん出てきてもらってもいいですか?」

 風羽の声で我に返り、周りを見渡したが宝石が見当たらなかったので、シルフは御簾の外に出る。

 そこには、この屋敷にいるだろう人物が全員集まっていた。



「貴様等、何でここに。陽性。どういうことなんだよ!」

 〝式神〟を懐に仕舞った直後、部屋の中に入ってきた顔ぶれに、琥珀は驚いたと共に怒りをあらわにして陽性を問いただす。

悲しそうな顔をして視線を逸らすと、御簾を見つめながら陽性がポツリとつぶやいた。

「話すことに決めたんです。真実を。白亜様のことを……」

「真実……」

 それは自分自身も知りたかったことだ。

 陽性は自分に隠し事を沢山している。

 そのことをさっき確信したのだから。

「なんだよ、それは。教えろ」

「順を追わねばなりません。とりあえず座りましょう」

「ほんとうに、良いの? 本当のことを言っても。そんなことをしたらさ……」

「もう、時間かもしれない。ワタシの勝手で、水鶏……アナタに迷惑をかけていますし」

「フンッ。だったらいいのよ。別に。アタシはどっちでもかまわない」

 水鶏はそういい捨てると、とことこと部屋の隅に歩いていって、座布団を弾くとそこに静かに正座した。ジッと、御簾を見つめている。

 ため息をつくと、陽性は部屋の隅にある座布団を人数分用意し始めた。琥珀は自分の分の座布団を取り出すと、水鶏から少し間をとっておき、そこに腰を下ろす。

「そこにお座りください」

 三枚用意された座布団に、風羽達が腰をおろした。

「シルフ様。しばらく後ろにいてください」

『かしこまりましたわ』

「できれば元に戻してくださると助かるのですが、無理そうですね」

「まだ何があるかわらないからね」

 陽性は風羽の前、一番御簾から近いところに腰を下ろすと、一呼吸ついた。

 同時に御簾の向こう側から、声が聞こえてくる。

「……客人か? みな集まってどうしたのじゃ……? 一体何が」

「白亜様」

 白亜の声を聞くだけで琥珀は安心できる。でも、あの人の声とは違った。

 自分が唯一心を許せる相手、白銀礼亜の声よりも高く若い声だということに、琥珀は今気づいてしまう。似てるけど似ていない。ほんのちょっとの違いに。

 白亜はいったい何者なのか。あの人はどこに行ってしまったのか。

 そのすべてを、きっと陽性と水鶏は知っているのだろう。

 琥珀は意味もなく〝式神〟を握りしめると囁いた。

「意味わからない」

 視線を上げると唄と目が合った。彼女は無表情でこちらを見ている。

 目を逸らすと、琥珀はただ御簾を見つめる。

 もう熱はなくなっていた。ただ純粋に、〝真実〟を知りたい自分がいる。それだけなのだ。

 躊躇いながら口を開いた陽性が、残酷な事実を告げるかのように口を開く。

「本当のことを、今から皆様にお話しします。白亜様の中にいる人が誰なのか。白銀礼亜がどこに行ったのか。どうして私たちが『虹色のダイヤモンド』を盗むのを阻止したのか。それから、野崎唄さん。アナタの両親が、どうして怪盗をやめたのかも――すべてお話します」 


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