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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第五曲 五日目
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(16) 幻想・下

 白亜は夢を見ていた。

 幼い頃、同じ年ぐらいの少年と遊んでいる夢を。

 だけど少年の顔にはもやがかかり、誰なのか判別がつかない。

 彼の名前を呼ぶ。すると、彼が手を差し伸べてくれた。

 その手を白亜は握ると、満面の笑みを浮かべて彼の名前を呼ぶ。


「――――!」


 そこで目が覚めた。

 仰向けの状態で、右手を前に出したまま、白亜は停止する。

(今、妾は何を……)

 夢を見ていたことは覚えている。だけど、肝心の内容が思い出せない。

 体を起こして右手を見る。

「なんだか、懐かしい感じがしたのう」

 昔の記憶はあやふやだ。二年前から以前の記憶がほとんどなかった。

 父は幼い頃に亡くし、母親に育てられた。母親の顔は思えているけど、どういう人だったのかは思い出せない。でも優しい人だった、ということは覚えている。

 なぜか二年前から一緒にいる同じ歳の青年。

 彼がどうして自分と一緒にいるのか、白亜はわからなかった。

 白亜はもともと黒髪だった。でも二年前から、いつの間にか髪の毛が脱色したかのような真っ白になってしまった。

 理由は知らない。気がついたら、白亜の髪の毛は白くなっており、いつの間にか家を出てこの屋敷に住んでいた。不思議と母親のもとに帰りたいとは思わないが、時々ふと考える。

「どうして妾は、ここにいるのじゃ」

 どうしても思い出せない。この屋敷にやってきて、自分の変わり果てた姿を人に見せるのが嫌になり、御簾の裏に引きこもっている。

 ――なにも思い出せない。

 唯一覚えていること。それは、自分の使命。

 『虹色のダイヤモンド』による犠牲を、出さないようにするために、宝石を守るということ。

 あの宝石には意思がある。自分たちに異能の力が芽生えたように、宝石に不思議な力が宿ってしまっていた。宝石の『意思』は人を喰らい、生きながらえていることを、白亜は知ってしまった。『虹色のダイヤモンド』は近寄る力なきもの(、、、、、)を食べてしまうのだ。その基準は解らないが、異能を持っていないものはもちろん、異能を持っていても一定の基準に達しない力――宝石よりも弱い力を持つ者は誰もが犠牲になってしまう。

 だから、守らなければならない。宝石を盗もうとする、『怪盗メロディー』を。彼女たちの能力は、まだ弱いのだから。特に、彼は……。琥珀が冷静なときだったら、絶対に勝てはしない。


 白亜は掛布団を手繰り寄せて、赤ん坊のように縮こまる。

 微かに、音がした。誰かの足音だろう。

 陽性か、琥珀か、水鶏か……。

 いや、違う。

 これは足音じゃない。風の音だ。

 隙間風よりは強い、風の音。


 さああああああ、と御簾が捲れ上がると、そこには一人の美しい少女と、一匹の灰色の狼がいた。



    ◇◆◇



「あ、やっべ」

 そう思った時には、もう遅かった。

 ちょこまかと動き回るルナにイラつき、陽性の悩みごとにむしゃくしゃして、室内だということを忘れて大量の炎をルナに向けてはなったら、その背後にいる水鶏に向かってしまった。

 慌てて消そうとするが、加減を忘れて大量の炎を出してしまったのが悪かった。

 すぐには消せそうにない。

 サラマンダーは小さく舌打ちをする。

「あの小娘もぼーっとしてんな!」

 理不尽だとは思っても、叫んでしまう。

 すると、サラマンダーの横を通り過ぎるものがいた。誰なのかはすぐに分かった。

 陽性だ。

 彼は、血相を変えて炎の前に躍り出ると、右手から炎を出して相殺しようとする。でも無理だ。いくらサラマンダーが炎を少し弱めているからといって、陽性が出す炎でどうにかできるわけじゃない。

(あー、ウンディーネいないのかよー)

 よくよく考えると、ここの屋敷には“四大精霊(エレメント)”が三人集まっている。ウンディーネがいないのが不自然じゃないのか、とサラマンダーは考えるが関係ないとすぐに悟る。

「あーあ、めんどくせー」



 ヒカリは慌てていた。

 水鶏に炎が向かってくるということは、彼女と対立している自分にも向かってくるということだ。

 背後には唄がいる。彼女はどうにかしても守らなきゃいけないが、水鶏も放っておけない。しかもなぜか炎との間に陽性まで割り込んでくるし、どこからどう見ても今にも焼かれそうだし。

 炎に光ほどの速さがないのが救いか、ヒカリは無理に頭をぐりんぐりんとフル回転させると、ルナに向かって叫んだ。

「俺らをどこかに移動させてくれぇ!」

『はぁい』

 右手を引っ張られる。そして、目の前から炎が消えた。



 ヒカリたちは今までいた部屋の廊下にいた。

『んー疲れた。もう帰っていい?』

「い、いや、もう少し待ってくれよ!」

『もう相手する精霊いなくなったじゃん。今の炎に飲まれてノームが消えたし、サラマンダーもめんどくさくなって帰ったみたいだよ。まあ、炎も消えたけどね』

 分裂していても、ルナの腕は四本しかない。それで連れて行けるのはヒカリと唄と水鶏と陽性の四人だけだったらしい。

 炎は壁にぶつかり部屋は炎上したが、サラマンダーが帰ったことにより、炎は思ったよりも早く消えた。

 ヒカリは唄を見る。ルナの手をいち早く離した彼女は、陽性と水鶏を見ていた。

「大丈夫ですか、水鶏?」

 ヘナヘナと座り込んでいる水鶏を、陽性が心配そうな顔で見下ろしている。

 水鶏は陽性を見て顔を赤くするとそっぽを向いた。

「なんで助けたの」

 今にも消え入りそうな、か細い声だ。

 陽性は困った顔をして首を傾げる。

「アナタは、私の仲間ですよ。大切な人です。助けるのは当たり前ですよ」

 真剣にそういう陽性の言葉に、ヒカリは思わず共感してしまう。

 水鶏は口を尖がらせると陽性を睨みつける。

「アタシと礼亜さん、どっちのほうが大切?」



 意地の悪い質問だということはわかっていた。答えももちろん、わかってる。

 だけど、少し陽性を困らせたくて、水鶏は真剣な目できいた。

「あ、それは……」

 陽性は困ったかのように視線をずらす。もう答えなんて出ていた。

(アタシじゃない)

 わかっていた。でも、なんだか泣きたくなってくる。

 別に自分のほうが大切だと思って欲しいわけじゃない。ただ、どちらもと言って欲しいだけだ。

 水鶏は口を引き締めて立ち上がると、ヒカリを睨みつけた。

「で、どうしてまだ精霊を出してるの? アタシはもう戦うつもりはないよ」

「ワタシもです。本当のことを、話したいと思っております」

「本当のこと?」

 ヒカリに言ったのに唄が反応して、水鶏は口を尖らせる。

 でも気にしないように努めると、三人と一匹に背を向けた。

「こっちに来て。白亜様に、会わせてあげます」


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