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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第五曲 五日目
44/55

(15) 意思

 踊り狂った炎がルナの分裂体の一つにぶち当たった。だがそう思ったのもつかの間、炎が通りすぎた道に粒子が集まり再びルナの姿を取り戻す。ルナの腕が振るわれると、そこから光が一閃、陽性に向かっていた。まさか自分に攻撃が向けられるとは思っていなかったのか、それともぼうっとしていたからかはわからないが、その一瞬で反応が遅れた陽性の頬をピッと赤い線が奔り、血が一滴流れでる。大きく目を見開き、陽性は無言で頬を拭った。

サラマンダーが不機嫌そうに鼻を鳴らす。

『なにぼうっとしてるんだよ、陽性。バカじゃねぇの?』

「すみません」

(なんで精霊に対して謝っているのよ。自分が従えているただのものなのに)

 水鶏は陽性の傷に心配しながらも、その心を隠してノームと相対しているルナの分裂体を睨みつけた。一瞬、純白の瞳でノームが見てきたが、水鶏は知らないふりをする。

『オレはどうすればいい?』

「ルナを殺して。アタシは、後ろで援護するから」

『精霊は殺せないんだけど。それは、ルナをあちらの世界に戻るまで痛めつければいいということなのか?』

 水鶏は答えない。ただ、いつでも能力を発動できるように右手に力を込めた。

 嘆息をついたノームは口を尖らせるとルナを睨みつけ、『わかったよ』と囁く。

 水鶏が右腕を垂直にあげる。それに合わせてノームが動いた。ルナが一歩後ろに下がるが、そこには壁がある。ノームはルナに迫り、右腕を振り上げ力いっぱい目の前にいる金髪の少女に振り下ろした。

 ドゴンッという大きな音がして、壁に穴が開く。

ノームは舌打ちをすると、振り返り水鶏を――いや、その前に再び現れたルナを睨みつける。

『ほんっと早いなぁ』

『それは当たり前なんだけどなぁ。ボクは〝光〟の精霊だからね。こんな感じで早く貫くことができるんだよー』

 その言葉と共に腕を上げたルナの指先から光が一閃、いやもう一つ。

 二つの光の光線が、ノームの背後の壁に二つの穴を開ける。それはノームが開けた穴とは違い小さいが、確実に精霊の心臓の位置と同じところに開いていた。

 わざと外したのだろう。その気になればいつでも心臓を穿てると。それは精霊だけではなく、精霊を召喚した主、水鶏に対する警告だったのかもしれない。

 水鶏は冷汗をかいている自分に気がつき、巫女服の袖で額を拭った。一歩、後ろに下がる。

(やっかいだね)

 ルナから目線を外すと、チラリと後ろを振り返った。そこには、右手に光の杖を持って立っているヒカリがいる。ルナに目線を戻すと、水鶏は声に出さずにノームに語り掛ける。

(ノーム、アンタ一人でルナの相手できるよね?)

(ん? オマエがそれを望むのなら、別にいいけど)

(じゃあお願いね。アタシは中澤ヒカリを相手にするから)

(……わかった)

 再び右腕に力を入れる。水鶏は軽い動作で振り返ると、ヒカリに向かって走り出した。

 後ろから『ふーん』という甘い声が響き、光が煌めくともに目の前にルナが姿を現す。一緒に走り出したノームがルナの横に並び、『よいっしょ』と鋭い右ストレートを放った。

 再び姿を消したルナを横目に、水鶏はヒカリの近くまで来ると足を止めてため息をついた。

「光の精霊とかチートすぎるのよ」

「い、いや、意味わかんねぇよ!」

「だって早いじゃない」

「それがどうだって言うんだよ……」

 水鶏から目を逸らすことなく、ヒカリが光の杖を構え直す。そのヒカリの瞳は、絶対にゆるぎなく背後にいる唄を守るためになら何でもやるというような決意が読み取れた。

 それに少し妬ける自分がいることに水鶏は驚いた。

 幼い頃から両親や姉と共に暮らしてきた水鶏だったが、侍女たちや警護をしてくれるもの達がいたものの、その数はたったの一人。ほかの数人は、姉の――姉の能力を守るためだけに雇われていた者達だった。その上、自分を守るために雇われていたはずの侍女は、自分の力よりも劣っていた。それを侍女本人も気づいていたからか、身の回りの世話や偶に手合せなどをしてくれたものの、彼女は水鶏のことを守ろうとはしてくれなかった。自分の身は自分で守れるでしょ、といつも彼女の瞳が物語っていたことを、水鶏は唇を噛みしめるとともに思い出す。

『……水鶏』

 ノームの落ち着いた声が聞こえてくる。水鶏は、息を吸って吐くとヒカリから目を逸らして、背後にいる陽性を見た。

陽性はただ立っているだけで、馬鹿みたいに踊り狂うサラマンダーが、ルナの相手をしていた。そんな陽性の表情は影っており、白亜を心配していることは明らかだった。それに、ますます嫉妬心が刺激されてくる。きっと、陽性は白亜か自分のどちらかしか守れないという状況になった時、絶対に白亜を守るのだろうと。自分の姉の姿をした(、、、、、、)、その人を。

ちっと舌打ちをした。

 そして、ヒカリを見て思う。

 自分は何をしたいのだろうと。目の前にいるヒカリの瞳からは確かな決意を読み取れるが、自分はどうして今ここにいるのだろうと。

 あの時に姉がした決断に惹かれ、ただ水鶏は姉のその先が見たいと思い、一緒に家を飛び出した。そのあとのことは考えていなくて、ある人の隠れ家だったこの屋敷を水鶏は借りていた。そのあとに姉の知り合いだと名乗る陽性がやってきて、なぜか琥珀までやってきて……。なされるがまま、水鶏は今の生活をしていた。

 もう一度、水鶏は陽性を見る。

(……ほんとーに、陽性ってば一途だよね)

 本当はいなくなるはずだった人。白銀礼亜という人を、陽性は一途に愛している。それは変わってしまった今でも変わらない思いなのだろう。彼は、”白亜(、、)”のことしか考えていない。

 水鶏はそんなことわかり切っていた。

 自分のことを本当に心をの底から守ってくれる人、そんな人なんていないことを……水鶏は脱力と共に思い知らされる。

「つまらないなぁ」

 自分は何をしているのだろう。姉は意思のない人だった。だけど決断をした。

 では、自分は? 自分はいったいどう思って、今ここで戦ってるんだろうか。

 白亜たちの目的も存在も思いもなにもかも理解はできている。だけど、ただそれだけだ。

 それ以上にはなり得ない。

 真っ直ぐに人を思う陽性の姿に恋心に近い感情を抱いていた。でもこれはただの憧れだと水鶏は気がついていた。陽性の為だと勝手に思い、ただ自分勝手に行動をしていたことだってわかっていた。

 そう……。薄々気がついていたのだ。誰よりも、自分に”意思”がないことを。決断する勇気なんてないことを。

『水鶏……』

 ノームの咎めるような声が再び響く。

 水鶏はいつの間にか俯いていた顔を上げると、ヒカリの背後にいる唄を見た。彼女は何かをするそぶりは見せない。中澤ヒカリに守られるのが当たり前かのように、そこに佇んでいる。

『水鶏』

 いつの間にかノームが目の前にいた。真っ白い瞳が水鶏を見つめてくる。

『悩み事?』

「違うよ」

『……まあ、いいけど。だけどな、これだけは言わせてくれよ。オレはオマエを守る為にここにいる』

 ノームがそう言ってにかっと笑った。白い歯がきらりと光る。

 水鶏はただ大きく目を見開いた。


 その時。


 ボゴォンッ! と、爆発音が響いた。

 音と共に大量の炎が向かってくる。


ということで二日続けての更新となりました。前のサブタイトルが『上』になっていたのに、どうして今回『下』じゃないんだよ! という突っ込みがありそうな予感。でも今回は結構重要な話なのです。『下』もちゃんと投稿しますので、しばしお待ちを! 次はいつごろになるかなぁ(;^ω^)

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