(14) 幻想・上
「風羽の馬鹿! なんで俺達に、二人いや四人相手させんだよあの馬鹿は! なんとか言ってくれよッ!」
「……頑張るしかないわね」
うるさく喚くヒカリは、唄の一言に「やっぱりか」と項垂れる。何を喚いたって、状況は変わらないのだから。
風羽が部屋の中からいなくなり、ヒカリとルナは、精霊も含め四人を相手しなくては行けなくなっていた。唄はいるものの、彼女の能力は戦闘向けじゃないので頼ることはできない。
どうしようどうしよう、とヒカリが頭の中で唱えるのに気がついたのか、うるさそうにルナが唸り声を上げた。
『うるさいんだけど、ヒカリー。落ち着いてよー。キミが焦ってるのボクに伝わるんだよ? だからさー、静かにしてよ』
「あ、すまん」
『えー。謝ったくせに、まだ君の頭の中ざわざわしてるんだけど。うるさいなぁ』
「うぇ、ごめん」
ルナに言われるがままに、ヒカリは深呼吸しながら落ち着くように努める。が、それは意識するほどにどんどんと、心臓の音までそれに反応して大きくなっていき、だけど何度も何度も深呼吸すると、少しずつ治まり始めた。
『んー。少し落ち着いたからいいかな。じゃあさ。早く始めようよー。こいつら、とりあえず動けなくすればいいんでしょ?』
簡単に言ってくれる。そう思っても声には出さない。いや、出さなくても、自分の考えは、殆ど彼女に筒抜けになってしまっているので伝わってしまっているのだろう。
ヒカリは迷いながらも、今ここには自分しかいないこと。
自分がどうにかしないといけないこと。
それから、背後にいる唄を守らなければいけないこと。
もう一回大きく深呼吸して、ヒカリは決める。
「そうだぜ、ルナ。こいつ等を動けなくして、そんでもって、こいつ等から情報を聞き出してやるんだ!」
『それは分かってるからもう始めるよ』
「お、おう」
ヒカリが答えるよりも早く、ルナは――光の粒子となって辺りに散らばってしまった。
軽い運動で体を慣らしているノームと火の玉で遊んでいるサラマンダーの背後で、散らばった粒子は圧縮されていき少女の形を取る。
分裂したルナに、ノームとサラマンダーが反応した。
ノームは戦闘態勢を取り、サラマンダーは舌なめずりをする。
そんな部屋の隅で一人、陽性はつぶやいた。
「どうしてこんなことに、なってしまったのでしょうか」
もともと、琥珀がいないときにすべて話すつもりでいた。『虹色のダイヤモンド』のこと、それから〝彼女〟のこと。
それなのに、今夜いきなり中澤ヒカリがやってきて、計画は台無しになってしまった。
今この場をどうにか収めようと、自分も精霊を召喚したが、そんなことよりも陽性は琥珀が気がかりだった。
――〝彼女〟のこと。
恐らく琥珀は気づいてしまっただろう。二年前にした自分の説明に嘘が含まれていることに。琥珀が絶望しないようにと、ついた嘘に。
琥珀に話さなければいけなくなった。隠していたことを。
だけど、それはあまりにも彼にとっては残酷すぎる事実で――嘘がばれてしまった今でさえ、陽性はどうにか隠しとおせないかと考えあぐねていた。
(どうすればいいのでしょう)
『んあ? なんだ陽性、悩んでるみてーだな』
サラマンダーが、不機嫌そうに話かけてきた。精霊を召喚している最中は思考がほとんど精霊たちに筒抜けになってしまうため、陽性が悩んでいることに彼女は気がついたのだろう。
戦闘に集中したいだろうサラマンダーに、陽性は「大丈夫です」と答えて、どうにか今この場を収めようと集中しようとする。
ヒカリの精霊〝ルナ〟は、分裂してサラマンダーとノームの前に現れていた。ルナの姿は分裂したためか、最初に見たときの半分ほどの大きさになっているが、それでも今夜の月は綺麗だ。月の光が強ければ強いほど、ルナの力は強大になってしまう。
今この時ばかりは、精霊の中でも大きな力を持つといわれる゛四大元素゛と同じかそれ以上の力を、彼女は持っているのだろう。
陽性は、今度は自分に言い聞かせるために、「大丈夫だ」と呟くとサラマンダーに命令した。
「ルナと召喚主を、止めてください」
『きゃははッ! んなの言わなくっても分かってるぜぇ! じゃあ、早速はじめてやんよ!』
炎が踊り、巻き上がった。
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