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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第五曲 五日目
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(12) 精霊召喚・下

(ここは俺も精霊を召喚したほうがいいのか)

 ヒカリは困惑しつつも、目の前で二体の精霊が召喚されたのを見て、なんとなくそう思っていた。

 風羽の召喚した風の精霊シルフと、水鶏の召喚した土の精霊ノームは、一方は嘲笑うかのようにもう一方は楽しそうに、今にでも戦いだしそうな雰囲気を出していた。

 ここで自分の精霊を召喚したらどうなるのか、ヒカリはあまりにも困惑しすぎて馬鹿げたことを考えていた。

 正直自分の精霊は、『四大元素(エレメント)』と比べると力は劣るが、ちょうど今は夜だ。まだ満月にはなっていないが、雲があまりない空には、月が出ている。今であれば、この二体の精霊に見劣りすることはないだろう。

 ヒカリは意を決し、右手を前に出した。

「ひっ、光を」

 声が裏返ってしまったが気にしない。

 後ろで「なにしてるの?」と訝しんでいる唄の声を無視して、精霊を召喚するための呪文を早口でつぶやく。

 どうにか噛まずに言えた呪文の後、もう一つの呪文――精霊に実体を与えるための呪文を紡いだ。

「えっと、光の精霊ルナ。お願いだから少しの間出てきてくださいッ! ……これでいいかな」

『んー、最後の言葉は、余計かな。まあ、しょうがないから出てきたけどさぁ』

 ――キンッ。

 高い少女の声が響いたかと思うと、甲高い音が一瞬耳触りに響き。

 光の玉がぽつぽつと現れ――そこに、眩い輝きを発している少女が現れた。

 少女の髪の毛はストレートで地面につくほど伸びており、その金髪は眩い光を発していた。着ているのは白色のロングのワンピースだが、髪の毛が光っていることにより、服まで光っているように見える。

瞳は対照的に黒く、くりくりとした瞳がヒカリを見ていた。少し眠たそうにも見えるが、それはいつものことだ。

 ヒカリは、少しびくついていた。

「い、行きなり召喚して、その……ごめんな」

『んー。何で謝るのかわからないなぁ。だって、ボクはキミと契約してるんだよ? だからさぁ、別に用があったらいつでも召喚していいんだよー』

 少し間延びした声は、辺りに反射するかのように散らばり、すぅとヒカリの耳に届く。

 ヒカリはやはり、彼女――ヒカリの精霊ルナが苦手だった。

 何というか、こう、つかみどころのないところが。

(苦手何だよなぁ)



「……じゃあ、君も精霊を召喚したことだし、ノームの相手はルナに頼むよ。シルフ、様には『虹色のダイヤモンド』の捜索をしてもらいたいから」

 眩しそうに目を細めながらルナを見て、風羽は言う。

 ヒカリは、「えっ」と声を上げたが、今にも襲い掛かってきそうなノームを見て、「わかった」と短く答えた。

「では、お願いします」

『わかりましたわ』

 ――――クスクスッ、と笑いシルフはゆっくりと部屋の中に入ると、開いているドアに向かっていった。

 ドアの前に陽性と琥珀がいるが、シルフは気にせず向かっていく。

 その時。

「やばい」

 風羽は気づいた。

 陽性の口が開いており、何かを呟いていることに。

「早いとこ、そこを突破してください」

『言われなくとも、わかっておりますわ』

 ノームは、シルフに向かうかどうか迷っていた様子だったが、眩しく光を発しているルナが、おっとりと微笑みながらもノームをじっと見つめ、そしてゆっくりと歩み寄ってくるのを見て、標的をルナに変えたのだろう――ノームはルナを見つめ返していた。

 そして――。

 シルフが、クスッ、と笑うと共に一陣の風が吹いた。

 その風は、陽性と琥珀の間を通り、

 瞬きする間もなく、陽性と琥珀の後ろにシルフは移動していた。

『ふふ、こっちかしら?』

 囁き、廊下に出たシルフは、左に向かって行く。

 何かを呟いていた陽性が、慌てて呪文を紡ごうとするがもう遅い。

 シルフは、ここにいる七人(、、)の視界からは消えていた。

 風羽は用心深く、陽性を見る。彼は、嘆息して再び呪文を呟き、言った。

「炎を司る、赤き精霊……サラマンダー。ワタシに力を貸してください。今、ここに、アナタを召喚いたします。おいで」

 ――ボッ。

 大きく炎が灯り、その炎は渦を巻いた。

『きゃはは』

 炎の中から、甲高い少女の笑い声が響いたかと思うと、炎は部屋全体を燃やすかのように広がり、消失した。

 消えた炎の中からは、一人の少女が現れる。

 燃えてるかのように赤いボブカットの少女だ。彼女は、茶色の瞳をまたたかせ、再び笑い声を上げた。

『きゃははっ。なんだか楽しそうなことになってるじゃねぇかッ! アタイも混ぜてくれよぉ!』

 風羽は眉をひそめる。

 これで、精霊は一体二となってしまった。今のところ、こちらに分が悪すぎる。

 ヒカリが「うわぁ」と間抜けに焦った声を上げているのを疎ましく思いながらも、風羽は隣の唄に声をかけた。

「どうする?」

「……いざとなったら、私の力を使うわ。まあ、私のは戦闘向きの能力じゃないから、力を貸すぐらいしかできないけど」

「知ってる。けど、それによく助けられたからね、今回も頼むよ」

「わかった、けど……」

「けど?」

「用心したほうがいいわ! 琥珀がっ」

 その声に、風羽は陽性から目を離し、琥珀を見た。

 憤り、そのあと静かに顔を伏せていた琥珀は、再び顔を上げていた。彼は、灰色の瞳でキッと風羽を睨みつけていた。そんな彼の右手には、〝式神〟が一枚握られている。

 琥珀は〝式神〟をぐしゃりと強く握り、大きく叫んだ。

「〝八又(、、)〟ッ!! シルフを追え!!」


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