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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第五曲 五日目
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(11) 精霊召喚・中

「聖なる風、それを司る精霊――シルフよ。我に力を貸してくれたまえ。我は風の使い手喜多野風羽。契約書に基づき、貴女をここに召喚する――」

 呪文と共に、淡々とした風羽の声が、部屋の外から響いた。

 ヒカリはそれに反応して顔を上げる。

 瞬間、一陣の風が吹いた。

 その風は、渦を巻き風羽の足元で踊り狂うと、ぱぁ、と花が咲くかのように、辺り一面にはじけ飛ぶ。

 弾け飛んだ風の中から、十歳ぐらいの少女が姿を現した。

 黄緑がかった様な白い肌。額には緑のひし形のようなものがあり、そこから触角が二本出ている。髪の色は薄い水色だが、所々に緑が混じっていた。瞳は灰色がかった透明、唇も同じ様な色をしている。纏っている服は真っ白のワンピース。靴は履いておらず、裸足のまま少し浮かんでいた。

 少女――シルフは、クスクスッと可愛らしい笑い声を上げた。

『ふふ。珍しいですわね、喜多野風羽さん? こんな時間にわたくしを呼び出すだなんて』

 ふわぁ、とわざとらしく欠伸をして、シルフは風羽を見る。

 シルフの声は不思議なもので、直接脳に語りかけられているかのように、あまり実態感は感じられなかった。

 ヒカリは、なぜここで風羽が精霊を召喚したかというよりも、シルフの美しさに思わず見惚れてしまう。

「な、何なのよ」

 水鶏の焦った声に、ヒカリは現実に引き戻された。

 無表情の風羽と険しい顔をした水鶏を交互に見て、ヒカリはとりあえず風羽たちのところに行くことにした。

 風羽に近づき、ヒカリは声をかける。

「おい、何やってるんだよ」

「何をやってるって、精霊を召喚したんだよ」

「い、いや、そういうことじゃなくてだな。なんで」

「なんで精霊を召喚したのか、か。それは、早いところ『虹色のダイヤモンド』を奪って、家に帰って寝るためだよ。僕たちはもう眠いからね」

 自分の問い掛けを先取りして答えた風羽の言葉に、ヒカリは言葉に詰まる。

 『虹色のダイヤモンド』を奪うというのは、よくわかる。ヒカリもそのつもりで来たのだから。

 だけど、その理由は早く家に帰って寝たいから、って。

「おかしいだろ」

「いや、おかしいのは僕じゃない。君だよ。君がこんな時間に勝手に行動したものだから、僕たちは今夜、『虹色のダイヤモンド』を奪わないといけなくなった。まったく、とんだ馬鹿のせいで、何で僕たちが。と思わないでもないけど、まあ、目的を達成するのが早くなっただけさ。気にしちゃいない。僕はね」

「馬鹿のことはどうでもいいわ。早く終わらせて帰るわよ」

「ああ、そうだね」

 クスクスッ、と笑い声が響き、シフルが囁いた。

『あらあら。あちらも精霊を召喚するみたいですわ』

 その言葉に、ヒカリは顔を上げた。

 仏頂面の水鶏が、右手を上げていた。



「――いでよ、土の精霊ノーム!」

 早口で紡いだ呪文の後、水鶏は大きな声で言い放った。

 精霊の魂この世に呼び出すための呪文は共通だが、精霊に実体を与える呪文は、人によって様々だ。実体は、召喚主の想像で左右され、呪文が長ければ長いほど、より強力で実体を持った精霊を召喚することができる。だが、短いからといって強力な精霊が召喚できないというわけではなく、資質と実力を併せ持つ精霊遣いに限り、短い呪文でも強力な精霊を召喚することができた。資質と実力を持っているものは、産まれながらにして精霊を扱うことができるためで、水鶏がそうだった。

 姉とは別に、水鶏は土の精霊『ノーム』の守護のもと産まれてきていた。

 その為、彼女はよく夢の中でノームとあっており、彼の実体がより明確に想像できるため、呪文が短くっても、ノームを召喚することができた。

 親戚や母には陰で姉と比較されて、大したことない能力だと、よく言われてきていたものだけど、水鶏は自分の能力はあまり嫌いではなかった。

 ――ズンッ。

 と、地面が少し揺れた。

『……ん』

 目の前に土の塊ができたかと思うと、それは人の形を取り始め、土の塊が崩れ落ちるとともに、そこに少年が現れた。

 全体に茶色が目立つ褐色肌の少年は、短い白色の髪の毛を風になびかせ、純白の瞳で何の用かと無言で問うてくる。

「シルフを倒して」

 首を傾げ、少年はボーとしたままセルフに顔を向ける。

『あ、うん。了解した。理由は分からないけど、とにかく頑張るな』

 きっとさっきまであちらの世界で寝ていたのだろう。やっと頭が覚醒してきたのか、ノームは純白の瞳を鋭くするとともに、口に笑みを浮かべた。

 水鶏はノームから目を逸らし、キッと風羽を睨みつける。


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