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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第一曲 一日目
4/55

(3) バトミントン対決・下

「――――――……はっ!」

 帰ってきたシャトルを唄は軽々と返す。その額には、じんわりと汗が滲んでいた。

 さすがにこれは、風羽が有利だ。五対三で負けている。

 相手は風を使っていて、こっちはただ単に身体を軽くするだけ……。

 先に十一点入れたほうが勝ちだが、これでは負けてしまうかもしれない。

「よいっしょ!」

 また来たシャトルを力強く返す。

 打ち返したシャトルは、風羽の後ろ――コートギリギリのところに落ちて行った。

(ギリギリ……。入るかも知れないっ)

 唄がそう思った瞬間、一陣の風が吹いた。

 その風はシャトルを救うと、風羽のラケットのところに行く。そしてそのまま打ち返され、唄のコートギリギリのところに落ちる。

 これで六対三。風羽がリードしている。

(やばいわね。このままでは私が負けてしまう。何とかしなければならないわ)

 唄は前を向いて、小さくため息をついた。

「ちょっと、風羽。何で力を使うのよ。不公平じゃない」

 意味のないことはわかっている。だけど、もしかしたらの意を込めて言ってみる。

「何を言ってるんだい? 君だって力を使っているだろう。お互い様じゃないか」

 が、やはり無意味だったようだ。

 唄はため息をついて風羽から目をそらすと、なんとなくあたりを見た。すると――。

「何よ、あれ」

 コートの周りに集っている女子が目にはいった。しかも、みんな風羽のコートの方である。

 なぜだかわからないが、風羽はモテル。この容姿と、人を近づけない何かが、彼の魅力を引き出しているのかもしれない。

「コートの周りには、結界を張ってたんじゃなかったの?」

「張ってたよ。でも、この学園は異能者の学校だからね。僕如きが造った結界なんて、すぐ壊されても仕方がないよ」

 さも当たり前のことだといわんばかりに言う風羽。その姿がいちいち決まっていて鬱陶しい。しかも、女子がキャーキャー言い出すからたまったもんじゃない。

「喜多野クン――。がんばってぇ――!」

「運動神経と頭の良さしか取り得のない女なんかに負けないでよー」

「にしても、アイツ」

「ガリベンの癖に、何でいつも風羽様と一緒にいるのよ」

 風羽様ファンクラブとでもいうのだろうか。女子達から、迷惑以外に他ならない声が発せられる。

(うるさいやつら)

 唄は大きくため息をついた。

(風羽なんかの、どこがいいのかしら)

 そして、冷ややかな目で女子連中を流し見ると、口を開く。

「風羽。とりあえず、結界を張り直し――」

「君たち。すまないが、静かにしていてくれないかい? こううるさすぎては集中できないんだ」

 だが、それを風羽に遮られた。

 静かな口調で言った風羽にの言葉に、あたりが一瞬でシーンと静まり返る。息の飲む音が聞こえてきそうなほどの静かさだ。

(ついでにどこかへ行って欲しいわ)

 唄はそう思ったが、言っても無駄だとも思ったので、声には出さない。

 かわりに、風羽が言葉を発した。

「さて、静かになったところで、続きをやらないかい?」

「ええ、もちろん。やりましょう」

 軽く唄は返すとラケットを構える。

(絶対に、勝つわ)

 たとえ遊びでも、負けたくない。唄は自身も認める負けず嫌いなのだ。

 唄は大きく息を吐くと、ラケットを振り上げた。



    ◇◆◇



 キーンコーンカーンコーン――――キーンコーンカーンコーン――――。

 一時間め終了のチャイムが鳴った。唄たち生徒は、自分達が使っていた道具を片付け始める。



 結局、さっきの対決は風羽が勝利した。途中から追い上げはしたものの、十一対九で唄の負け。

 悔しいものの、唄は自分の使ったラケットやシャトルの片づけをするため、運動場の隅にある倉庫に入った。

「残念だったな。お前、負けたんだろう? 顔に書いてあるぜ」

 その時、との裏側にいたヒカリに声をかけられた。彼は腕を組んで笑みを浮かべている。

「……よく、わかったわね」

 チラリと流し目しただけですぐ目をそらすと、唄はぶっきらぼうに答えた。

「俺はお前の幼馴染だぜ。それぐらい、すぐにわかるさ!」

 その言葉に反応して唄がヒカリを見ると、彼は胸を張って自信満々な表情をしていた。

「――――――ばかみたい」

 それに、唄はそう吐き捨てると、その場から足早に去って行く。

 その後姿を、ヒカリがなんともいえない表情で見ていたのを、唄は知らない。



    ◇◆◇



 二、三、四時間めと、退屈な時間がすぎていった。今日は昼前に授業が終わるので、早く帰ることができる。

 もちろん、唄もちょっとは嬉しかった。退屈な授業が終わって清々している。

 ホームルームも終わり、クラスのみんなはバラバラに帰って行く。ヒカリも、男子を四人ぐらい引き連れて教室から出て行った。

 風羽はまだ、席に座って本を読んでいる。その姿を何人かの女子が見ているが、彼は気にしてない。

 はぁ、と唄はため息を吐き出すと立ち上がった。――と、その時。

 いきなり風羽が後ろを振り向いた。

「ところで、後であそこに行くんだよね? 僕も行ったほうがいいのかい?」

「ええ、もちろん。貴方は私のパートナーなんだから当然よ」

「まあ、どっち道行くつもりだったんだけどね」

(ならいちいち聞かなくってもいいのに)

 唄はそう思ったが口には出さなかった。

 再び本に目線を戻した風羽を一瞥すると、唄は教室から出て行く。

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