(8) 仲間について・下
「白銀礼亜?」
ヒカリが惚けた声を出す。
「白銀礼亜、か」
風羽が何かを知っているかのように、つぶやいた。ヒカリが、それに反応をする。
「風羽知ってるのか?」
「ああ。あの時、君はいなかったから知らないと思うけど、僕が仕入れた情報でね、唄と水練には話したことがあるんだ」
「あの時……?」
「僕と唄が琥珀の尾行をした後だよ」
「あ、ああっ! 一昨日! 確かあの時俺、水練のところいたんだけどさー。いきなり姉貴に呼び出されて家に帰ったんだよ。お前らあの後来たのか……」
自分だけのけ者にされた、というわけではないが、その情報とやらを聞きそびれたことにヒカリは残念がる。
「で、その情報って何だ?」
「……二年前のことだ。幻想学園の今までの生徒たちの記録があるコンピュータがハッキングされたんだよ。どういう意図があってかまではわからないけど、後からその時に一人の生徒だった人物の情報がなくなっていることに気付いてね。まあ、そんなたいしたことじゃなかったのと、個人情報が載っている記録へのハッキングを隠したかったのとか、いろいろあると思うのだけど、その情報は一部の警察と先生によって隠蔽されたみたいだね」
「ん? よくわからないけど、その情報が関係あるのか?」
「その時に情報を消された人物が――――白銀礼亜、という名前なんだよ」
「えっ!?」
「まあ、個人情報を消されただけで、彼女の授業を担当した先生や同級生の記憶まで消すことは不可能だから、ほとんど意味はないと思うけどね。どういう意味があるのかは知らないけど……」
そこで唄は言葉を切り、続きを言うか言わないか逡巡する素振りを見せる。
「風羽? どうしたの? もしかして、あの後わかったことでもあった?」
「ああ。少しだけね。なんとなく気になって、昨日ヒカリの家に行ったときに、ヒナさんに聞いてみたんだ。そうしたら、少しだけわかったことがあるんだよ」
「え、なんで姉貴にっ!?」
いきなり自分の姉の名前が出てきて、ヒカリは戸惑う。
「白銀礼亜は――」
「ねぇ、ちょっと何自分たちの世界に浸っているのだかわからないけどさあ、アタシがいること忘れてるんじゃない!」
瞬間。叫び声が出る。
ヒカリは、いつの間にか背を向けていた人物、水鶏に目をやる。
彼女は、酷く不機嫌そうな顔をしていた。
紫色の瞳は鋭く、風羽を射抜いている。その目が、それ以上言うなということを物語っていることに、ヒカリは気づいた。
「名前ぐらい知ってるからって、なんなのさ。今からアタシが教えてあげることなんて、アンタ等は知らないと思うけど」
「……なら、それを早く教えてくれないかい?」
風羽が言う。
「言われなくっても、勿論そのつもりだよ。教えてあげる。二年前、白銀礼亜という人物が、どうなって、今どうしているのかを。教えてあげる」
唄が眉を潜めた。その隣にいる風羽が冷静な目で水鶏を見ている。そんな三人を見渡し、ヒカリはただ水鶏の言葉を待った。
水鶏が、口元に笑みを浮かべる。
そして――。
「その話は、そこまでにしていただけますか、水鶏」
部屋のドアがガラリと開き、瓦解陽性が焦ったような、でもそれを取り繕ったような表情で立っている。
ビクッと水鶏の肩が揺れ、彼女はしまったというような顔で振り返り、陽性を見た。
「……来たんだ」
「ええ。琥珀が、侵入者が入ってきた、と教えてくれたのですよ。どうやら、結界は間に合わなかったようです」
陽性が唄と風羽を見る。
「それよりも、ですが。水鶏。今の話は、四人の秘密のものです。彼女達の許可もなしに、教えてはなりません」
「……知ってるけどさぁ。こいつ等だって、無関係じゃないでしょ。あの宝石を狙ってるんだから。だから、教えてあげないと。あの人の二の舞にならないように」
「それもそうですが……」
口を尖らせる水鶏を、陽性は困ったように眉を寄せてみる。彼は、チラリと自分の背後を見て、小さな声で言った。
「ここには、琥珀もいるんですよ」
水鶏が息を飲んだ。
途中まで開いていた部屋の扉が、ゆっくりと開いていく。
扉が開ききった時、そこには平安時代の人が着ていたような服を半袖半ズボン風にアレンジした物を着ている、琥珀がいた。
琥珀は、唄、風羽、ヒカリ、それから水鶏と陽性の顔を見て、険しい声を出す。
「どういうことだ。今、話していたことは……。白銀礼亜って、白亜様のことだよな?」
水鶏と陽性は答えない。二人とも、困ったような表情をしている。
琥珀は口をきつく結ぶと、殺気を滲ませた表情で、大きな声をだす。
「いったい、どういうことなんだよ!!」