(2) バトミントン対決・上
幻想学園の授業には、一つだけ他の異能学校とは違う授業がある。
その名も――――――〝自由体育〟。
それは、名のとおり自由にできる体育である。簡単に説明すれば、それぞれの個性にあった競技を色々な人と対決したりすることのできるものだ。もちろん異能を使うこともでき、半ば遊びの授業なのに時たま真剣勝負が勃発することもある。そして、2―Aの月曜日――唄たちの一時間目は、その授業であった。
◇◆◇
「――で? 君が僕と一緒にバトミントンをやるだなんて、いったいどういう了見だい?」
すっかり体操着姿になった風羽がメガネを直しながら口を開いた。
その前で、まだ九月の終わりぐらいだというのに上下ジャージ姿になっている唄が、傍から見ると分らない笑みを口元に浮かべると、
「私たち、あまりバトミントンはしたことなかったわよね? だから、久々にやってみようとしただけよ」
ラケットを手の中で弄びながら答える。
ここは、広い運動場の隅にあるコートの一つ。
唄たちは真ん中にあるネットを挟んで向かい合っていた。左右にもコートがあるが、彼女らを避けだろうか、そこには誰もいない。
そして、少し離れた所では、男子たちがサッカーをしていた。その中に、ヒカリもいた。
彼の周りでは大きなざわめきが起こっているが、対照的に唄たちの周りはとても静かだった。まるで、周りに音を断絶する何かがあるような――。
「君が、僕に勝てるとは思わないけど」
風羽がメガネ越しに無表情の瞳を向けてきた。
「何か勝算でもあるのかい?」
「無いわよ」
唄はそっけなく答える。
「ただ、貴方とやってみたかっただけ」
「……君は、僕の能力を知ってるよね? それなのにやろうだなんて、もしかして君は馬鹿なのかい?」
はあ、と大きくため息をつくと、風羽は徐に右手を上にあげた。
刹那――。その手に、見えない風が集っていく。
「僕は風使い。風の吹き荒れる外は、僕の絶好のテリトリーだ」
そして右手を下に振り下ろすと、どっと強風が辺りに吹き荒れた。
風に弄ばれる髪の毛を軽く抑えると、唄は冷たい瞳で風羽を見つめる。
「そんなの今更言われなくても知ってるわよ」
「……ああ、そうだろうね。僕は仮にも君のパートナーなんだから」
「それに私には、軽業がある。運動神経だったら、負ける気はしないわ」
風は、もう治まっていた。
唄は、ラケットをネット越しにいる風羽に向けると、静に張りのある声で告げる。
「早く勝負を始めるわよ!」
◇◆◇
コインを指で弾くと、クルクルと2メートルばかり飛び、すぐ落ちてくる。それが手の甲の近くに来たとき、唄は左の手の甲と右の掌の間に挟んだ。
「私は表――」
「じゃあ、僕は裏だ」
唄は軽く一回深呼吸して、右手をゆっくりと持ち上げる。そしてコインをチラリと流し目で見と、
じゃあ、私からね。シャトルを頂戴」
左手を風羽に差し出した。彼は軽く投げ渡してくる。
シャトルを受け取った唄は少し後ろに下がると、ラケットを構えた。風羽もそれに習いラケットを構える。
シューと、二人の間に弱い風が流れたような感じがした。
そして、唄はラケットを下に持っていくと、シャトルに向けて強く打ち付けた。
バトミントン対決の開始だ!!