(7) 疑問
今日の授業が全て終わったことを告げる、チャイムが鳴り響いた。
二時間目からちゃんと授業を受けていた唄は、鞄を持って立ち上がる。
「今日は、これからどうするんだい?」
振り向き、風羽が声をかけてきた。彼は用意を押し終わった鞄を机の上においたまま、見上げてくる。
「家でのんびりしておくつもりよ。――もう、明後日なんだから」
「そうだね。じゃあ、僕はこれから水練のところにあのことを伝えに行くよ」
「わかった。お願いするわね」
短い会話を交わして、唄は風羽から視線を逸らすと、教室の入口に向かって行く。
唄は廊下に出ようとして、立ち止まった。目線だけで、ある一角を見つめる。
そこでは、ヒカリが男友達と談笑している。それを見て、唄は二時間目からのことを思い出していた――。
二時間目の休み時間、唄が教室には言ってからのことだ。
なんとなく気になったのでヒカリの方を見ると、彼は何かを考えているかのように物思いにふけっていた。
ヒカリにしては珍しいことだったので訝しみはしたものの、唄はあまり気にしず自分の席に腰掛けた。
どうでもいい、と。
だが、二時間目の途中になんとなくヒカリを見ると、彼は授業など上の空でボーっと虚空を眺めていた。かと思うと、頭に手を当ててなにかを考えごとする。
その物思いに耽っていたヒカリはどこへやら、彼は男友達と楽しそうに談笑している。
それを唄がジッと見つめていると、不意にヒカリが此方を向いた。
数秒、二人は見つめ合う。
すぐにヒカリが目をそらしたので、唄はため息をつき視線を逸らす。
そして、そのまま廊下に出て行った。
◇◆◇
「ふ~ん。へぇ~。ほぉ~。そううなんやねぇ~」
適当に相槌を打ち、水練は呟いた、
入口の近くで手紙のことを話し終えた風羽が、それを気にした素振りも見せず、囁いた。
「それで、君はどうするんだい? ニセモノを盗むために、君は手を貸してくれるのかい?」
「あたりまえや。一応、あたしはあんた等の仲間やからね。手を貸すぐらいは容易いことや」
水練がやはり適当に返すと、風羽はゆっくりとため息をつく。
「そうなんだ」
「それよりも――あたしは、日曜日にどうするか、聞きたいんやけど……」
「どういう意味だい?」
「これはあたしの予想だけど……もしかしたら、闘えるんやないかなーと思ってなァ」
ピクリと反応して、風羽が顔を上げた。
水練は口元に愉快そうな笑みを浮かべると、足を組んで頬杖をつく。
「最近なァ……何も力使っとらんから、久々に自分の力の全てを使ってみたいんや。だから、もし日曜にあいつらんところに行くんなら、是非闘いたいなー手思ったんや」
あははッ。と水練は笑い声を上げる。
風羽は眉を潜めると、低い声を出した。
「僕は、そんなことごめんだね」
「相変わらず、平和主義者なんやねぇ」
「……悪いかい?」
「いや、べっつにぃ~? てゆーか、さっきの半分冗談やから、気にせんでええよ」
水練は適当に、よくわからない方言でからかうように言う。だが、その半面心の中は覚めていた。
(――戦いたいのは、本気だけど)
水練は髪の毛を掻きあげて、水練は意地の悪い笑みを浮かべると、瞳を煌かせて風羽を見る。
「なァ……どうして、〝風林火山〟の連中が、簡単に〝虹色のダイヤモンド〟を盗むことができたんだと思う?」
「え?」
「だって、不思議じゃない。|初代のメロディーが盗めなかった獲物《、、、、、、、、、、、、、、、、、》を、どうしてあいつらが盗めたんや?」
目を見開き、風羽が息を飲む。瞳が揺れ動き、視線が徐々に下がっていく。
水練は笑みを浮かべたまま話を続ける。
「唄の両親も異能者なんやろ? あいつらが盗めて、なんで唄の両親が盗めなかったんや?」
「……能力の相性、とか」
「かもしれんな。――けど、個人的に、何で初代メロディーが盗めなかったか、気になって気になって、しょーもないんや」
珍しく動揺している風羽を水練は面白そうな笑みを浮かべて見る。
少し視線をあたりに彷徨わせていた風羽は、顔を伏せた。そして再び顔を上げると、さっきの同様はどこへやら、表情が消えて無表情になっていた。ゆっくりと彼の口が開く。
「……僕は、もう帰るね」
「へぇ?」
拍子抜けして水練は口を開けたまま固まる。
風羽は返事など聞かず、すぐ扉を開けると出て行ってしまった。止める間もなかった。
表情を消すと、水練はパソコンと向き合う。
「なんだ。つまらんなー」
最近更新が停滞気味ですみません……。リアルで忙しく、中々更新ができないのです。これからは、なるべく一ヶ月に一話は更新したいと思っています。余裕があれば、二話ぐらいも。
これからも読んでくださいますと、私は泣いて喜ぶので、どうか見捨てないでくださいますと嬉しいです!