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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第四曲 四日目
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(6) 屋上での対立・下

「――グッ」

 くぐもった声をあげると、少年は右手を左手で押さえて屈み込んだ。

 それを待っていたとばかりに少年を見ると、水練は彼から少し距離を取る。右手を構えるのを忘れない。

「くそっ。何をやりやがったんだ!」

 少年は鋭い目で睨みつけてくると、左手を徐に前に出した。

「何……?」

 水鶏は少年の出した手を見る。そこには、光り輝く杖のようなものが現れていた。茶色の土で覆われた右手を庇うかのように、それを構えている。

 すぐにでも土を出せるように手を構えながら、水鶏は少年の動向を探る。

(――――さあ、どうなるか)

 そう思うと同時に、少年が動いた。

 光り輝く杖のようなものを横に一閃させるとともに、金色に輝く光があたりを包む。

 それに目が眩み、水鶏は思わず目を瞑ってしまう。だが、右手を前に出し、込めていた力を解き放った。

 衝撃音があたりに響き渡る。

 水鶏は目を開けて前を見た。

 最初に見えたのは、眼前に立ちふさがっている茶色い土の壁だった。それに光り輝く刃が反対から突き刺さり、貫通している。

「光、使い」

「違う。俺は、光の守護者だ」

 水鶏が呟くと同時に、横から低い声が響いた。

 慌てて右を向こうとするが、首筋にヒヤリとした感触を感じた。横目で見ると、光り輝く杖が添えられている。

 水鶏は自信の首辺りに防御する為の小さい力を移動させながら、右斜め前にいる少年を睨みつけた。

「アンタ、誰? アタシに、何のようなの?」

 少年が手に力を入れたのか、杖の先端が少し水鶏の首に突き刺さる。若干の痛みを感じたものの表情を変えることなく水鶏は少年を睨み続ける。

「――お前はッ。『風林火山』の水鶏だろ!」

「っな、なんでそれをッ!?」

 少年の言葉に思わず反応し、水鶏は声を荒げる。数秒送れて、自分が肯定してしまっていた事に気がついた。

(ヤバイ。誰だか知らないけど、不用意に肯定しちゃいけなかったッ)

 小さく舌打ちをすると、少年を鋭い目でにらみ続ける。

(何で、コイツはアタシのことを知ってんだ。しかも、まだアタシの質問に答えてない)

 もう一度尋ねようと口を開くが、それよりも早く少年が口を開いた。

「俺の名前は、中澤ヒカリ」

(中澤ヒカリ?)

 初めて聞く名前だ。記憶を探ってみるが、思い当たる節はない。どこかで聞いたことがあるようなきもするが、自分とあの人のこと意外はどうでもいいので、一々覚えてはいない。

 水鶏が呆れてため息をついた、その時――。

 少年がとんでもないことを口走った。

「俺は――怪盗メロディーの一員だ!!」



    ◇◆◇



 窓側の一番後ろの席で、琥珀は小さくため息をついた。黒のダテメガネを右手で直すと、外を睨みつけるようにして見た。そこから中庭が見えており、大きな噴水とその近くにあるベンチが見えている。

(――まったく。アイツ等は何を考えているんだ?)

 琥珀は目を閉じて神経を集中させた。周りにある薄い気配を持つ生徒を素通りさせ、そのまま神経を屋上に集中させる。そこには――。

 辛子のような気配とチョコのような気配があった。

 片方はついさっき感じたものであり、もう片方はよく知ってる嫌な気配だ。

 目を開けると、琥珀は黒板を見た。教科担当の先生はいつものように授業をやっており、琥珀の行動には気がついていないようだ。

 もう一度、琥珀は小さくため息をつく。

(少しは場所を考えてやれ。馬鹿野郎達が)



    ◇◆◇



「――で、このこと、ヒカリや水練には言うのかい?」

 グシャリと手紙を握り締めている唄に、風羽は冷ややかな声をかける。

 それに、正気を取り戻した唄は、無表情に戻り椅子に腰掛けた。

 グシャグシャになった手紙を丁重に広げ、机の上に置く。

「水鶏には伝えるわ。……けど、ヒカリは後よ。あいつのことだから、伝えたら伝えたで、明後日手を抜くかもしれないし。あいつには、ニセモノを盗んだ後、伝えた方がいい」

「……そうか。わかったよ。じゃあ、水練には僕が伝えておくね」

 風羽がそう言うと、

「そう? ならお願いね」

 唄はそっけなく答える。そして、そのまま背もたれに身体を預けた。

「日曜日に、行くのかい?」

「ええ、もちろんよ」

「そうか。まあ、怪盗なら、当然だよね」

「それよりも、日曜日まで『風林火山』と何もないといいのだけど……」

「それは問題ないんじゃないかな。瓦解陽性という男は、多分律儀な男だと思うよ」

「何でそういい切れるわけ?」

「なんとなく、ね」

「……ふ~ん、そう。まあ、別にどうでもいいわ」

 微笑を浮かべている風羽をチラリと見て、唄はため息をつくと天井を見上げた。

「ほんっとうに、何もないといいのだけどなぁ――」



    ◇◆◇



 自信満々に言い放つと、ヒカリは目の前にいる少女を見た。

 彼女は大きく目を見開き固まっている。

 どうやら、こっちことはあまり知らなかったみたいだ。それか自分のことだけ知らなかったのか……。

(いや、それはありえない。俺だって、一応怪盗メロディーの一員なんだからなっ)

 ヒカリは杖に力を込めると、水鶏を見た。

 彼女をここで逃すわけには行かない。なんとしても、琥珀が言っていたことを問いたださなければ。

 相手の行動を一切見逃すまいと、鋭い瞳で水鶏を睨みつける。

 そして口を開いた。

「俺らに、何か言うことがあるだろ?」

「……何のことよ」

 水鶏の言葉に、ヒカリは苛立ちを覚える。

「あるだろ! 何か、あるんだろ! あいつが――琥珀が匂わせてんだよッ。また、近い内に会えるだろう、って言ってたんだよ!!」

「琥珀が!?」

「ああ、今朝倒れていたあいつを保健室に運び込んだ後、起きたあいつがその言葉を残して、さってたんだ! なあ、お前何か知ってんだろッ。教えろよ! なあ、聞いてんのか!?」

「……ったく。そんながっつくんじゃないよ。わめかなくっても聞こえてんだからさ。アンタのすぐ傍にいるじゃないか」

 舌打ちをして水鶏が睨んできた。

 それに苛立ちが込み上げてきたが、ヒカリは何とか押さえ込むと睨み返す。

「すぐ話せ」

「その前に、これはどかしてくれないかい? 痛くって、話ずらいんだよね」

 水鶏がヒカリが輝く杖を目で示す。

「ダメだ」

 ヒカリは低い声で答える。

 それに、わざとらしく水鶏が大きくため息をついた。

「別に、アタシは逃げやしない。アンタと大きな戦いになって、目立つのも嫌だしね」

 水鶏が怪しげな瞳を向けてくる。

 少し躊躇いながらも、ヒカリは「わかった」と呟き、机を離した。少し距離を取りつつ、相手が逃げようとしないように睨み付けることを忘れない。

 水鶏はパンパンと服を払うと、無表情で見てきた。

「さて、何から話そうか……」

「何でもいいからとっとと話せ」

 ヒカリは先を促す。

「そんなに急かさなくともちゃんと言うさ」

 ため息をつくと、水鶏は表情を一変させた。

 瞳や口元に怪しげな笑みを浮かべ、これからとても楽しいことを話すかのように、歪めた口を開いた。なんとも言えない不安がヒカリを襲う。

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