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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第四曲 四日目
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(2) 琥珀の夢・上

 暗いくらい暗闇の中、琥珀は目を覚ました。何回か瞬きをするが、瞳には何も映らない。震える唇を開き、琥珀は呟く。

「ここ、どこだ……」

 琥珀は自分の身体を眺める。身体は、暗闇の中、青白く光っていた。服は何も着てない。

 上下左右暗闇に包まれており、空中を歩いているような浮遊感を感じる。

 一歩足を踏み出すが、ちゃんと地面を歩いているのかわからず、へんな感覚に陥ってしまい、うまく歩くことができない。

「くっそッ。なんなんだよ、いったい……」

 前方を睨み、琥珀は当てもなく進んで行く。

 琥珀は暗闇が嫌いだった。暗い世界に入ると、嫌なことを思い出してしまう。悲しいことなどを含んだ、昔のことを……。

 忘れたくっても忘れることができない。嫌なことは、楽しいことや嬉しいことよりも、記憶に鮮明に根付き続ける。

 首をブンブン振ることで嫌な思いを振り払う。

 その時、不意に目の前に白っぽい映像が浮かんだ。

「なん、だ……?」

 琥珀は足を止めると、白っぽい映像を怪訝な顔で見る。

 そこから、


 ――――――あの子ってさぁ……。


 どこか懐かしく、嫌なことを思い出せる声だ。

 琥珀は驚愕に目を見開き、画面を凝視する。

 そこには、二人の男女が映っていた。事務所のような場所で、二人話をしている。その男女は、琥珀のよく見知った顔である。彼らは、琥珀が逃げ出した児童養護施設にいた職人だ。

 目の前の映像は、琥珀の意思とは関係なく流れ続ける。


 ――――――はっきりいって、なんだか気持ちが悪いのよね。

 ――――――そうだな。俺も分かるぜ。あいつ俺を慕ってくるのはいいんだけど、はっきりいってまいってんだよ。気味悪いし。……どうせ、捨てられ子だからな。


 二人の男女のいる部屋の窓の外はオレンジ色に染まっている。

 あの時のことはよく覚えている。あれは二年前、夕暮れ時のことだ。たまたま窓の外を通ったときに、部屋の中から声が聞こえてきた。その時、琥珀は二人の会話を聞いてしまったのだ。

((嘘だ。あんな事を思っていたなんてッ。あんなに、優しくしてくれていたのにッ))

 そして、琥珀は、施設を出る事に決めた――。

 あの時のこと思い出し、琥珀は画面に映っている男を睨みつける。

 今ならわかる。あの時のことは嘘ではない。

(あそこにいたやつらは、皆ボクを嫌ってたんだ。ボクの持っている〝力〟を怖がって、いい人ぶっていただけだ)

 男女二人が写っている映像は消え、また新しい映像が現れる。

「くそっ。何なんだよ、これはッ!」

 消えてくれ、消えてくれと呟きながら、琥珀は暗闇の中、当てもなく走り出した。



    ◇◆◇



「大丈夫なのか……。こいつ」

 ヒカリはベットに寝かされている琥珀を、椅子に座ったまま見下ろす。

 保健室の中には、今はヒカリと琥珀の二人しかいない。保険医の先生は、今日の午前は出張らしい。医療知識が皆無なヒカリは、とりあえず琥珀をベットに寝かせておくことにした。

(どうるりゃあ、いいんだこれ。コイツをこのまま寝かせておくわけにはいかないしよ)

 ああ、ああ、とヒカリが悩んでいると、保健室のドアがゆっくりと音を立てて開いた。



    ◆◇◆



 ――――――見て、あの子の髪の毛。すっごい真っ黄色よ。

 ――――――気持ち悪いわ。目なんて、灰色だし。能力者かしら?

 ――――――きもちわるい。きもちわるい。きもちわるい。きもちわるい。


 浮かんでは消える映像から、嘲笑するかのような男女の〝きもちわるい〟という声が響く。

 それは移り変わっていくどの映像からも流れており、琥珀は暗い世界の地面に座り込むと、耳を塞いだ。締め出すかのように頭をブンブンと振る。

「うるさい、うるさい。うるさいぞ貴様等! 消えろうるさいうるさいッ」

 同じ言葉を壊れたロボットのように繰り返し言う。

 だが、琥珀の気持ちとは裏腹に、周りの映像からは非難するかのような声が響いてくる。


 ――――――やっだぁ~。こっち見たわ。こわぁ~い。

 ――――――うっげぇ。消えろよ。こっち見るんじゃねぇ。

 ――――――なんであんな子がウチに? おかしいんじゃない。

 ――――――何で普通の学校にいるんだか。アイツ、見た目からして能力者だろ?

 ――――――あんたも言うねぇ。あはははははッ。


 場面はいつの間にか琥珀が前に通っていた、能力のない普通の者が通う学校の風景に変わっていた。

「あ、あぁ……」

 琥珀は画面を見ないように目をギュッとキツク瞑り、耳をもっと強く押し付ける。でも、やはりそれも無意味で、押さえつける指の隙間から、非難するような生徒の声が侵入してくる。

 いくら耳を掻き毟っても、触れることのできない映像を殴りつけても、それは、消えることはない。

(なんなんだよ、貴様等ッ。何の力もないくせに、僕を愚弄するなッ! ただの人間のくせに。群れてなきゃ、何もできないくせにッ。いい気になるなよッ!)

「あぁ……あぁ……。うるさいうるさい……。消えろ消えろッ……」

 映像の中には、当時担任だった先生も映るが、琥珀に送られる非難のような声など聞こえていないかのように、それとも本人自身も琥珀を嫌っているかのように、平然と授業をやり始める。

(なんなんだ、これはッ。本当に、本当になんなんだよ、これはッ!)

「消えやがれええ絵えええええええッ!!」

 琥珀は大きくそう叫ぶと、映像から遠ざかろうとするかのように、耳を強く抑えて、また走り出した。

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