表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第四曲 四日目
23/55

(1) 校舎裏

「ちょっと、付き合ってくれないかしら?」

「――はい?」

 朝下駄箱のついてすぐ、唄は三人の女子生徒に囲まれた。

 自分の行く手を阻む女子達を呆れた眼差しで流し見すると、自分の靴に手を伸ばす。――が、

「ちょっときいてんの?」

 肩に手を置かれ、無理矢理振り向かせられる。特徴的な赤っぽい瞳と目が合った。



    ◇◆◇



「――ったく。何だか無性にイライラするぜ」

 ポケットに手を入れながら、ヒカリはぶつぶつ呟きながら廊下を進んで行く。朝早くの学園の廊下は、人は少なく静かである。

 だが、ヒカリの心の中はすごい騒がしかった。何とも言えない思いが渦巻いているのだ。

 ヒカリは気づきたくないと思いつつ、自分の本当の気持ちに気づき始めていた。

 彼女が大切だという気持ち。彼女を守りたいという気持ち。それから――。

「あぁああああああッ。んなんだよ、このイライラわッ!」

 大きな声で叫ぶ。だが、中々イライラは収まらない。

 同じクラスの女子に声をかけられるが、ヒカリは気づかず通り過ぎて行く。そのまま曲がり角を曲がろうとした、その時。

 ドンッと、誰かとぶつかり、ヒカリは尻餅をついてしまう。

 それと同時に、ヒカリに誰かが倒れこんできた。

「くっそッ。なんなんだよ、いきな……り?」

 喚きながらヒカリは自分に倒れ込んできた人物を見て、言葉を止める。倒れ込んできた生徒は、少しも動く気配を魅せない。

「……えっ。お、おい! どうしたんだよ、お前!?」

 ヒカリは生徒の肩を揺する。だが、生徒は何の反応も見せない。

(ま、まさか……。ぶつかった拍子に頭を打ったんじゃあ……)

 蒼白な顔をすると、ヒカリは生徒の顔を仰向けにする。そして、

「えっ」

 生徒の顔を見て、ヒカリは息を呑んだ。

 その生徒は中等部の制服を着ていた。髪は綺麗に切り揃えられたおかっぱぽい髪型で、その色は黄色。瞼は閉じられているが、ヒカリの予想が正しければ、その下に隠れている瞳の色は灰色だろう。

 一回しか会っていないが、忘れるわけがない。

 中等部の制服をまとった小柄な少年は、間違いなく『風林火山』の〝琥珀〟だった。

「嘘だろ、おい。なんで、コイツが……。あ、そういやあ水練がそんなこと言ってたっけ? ……いや、そんな事はどうでもいいんだよ。何でコイツは、俺とぶつかっただけで気絶するんだ?」

 少し考えてみるが、結果だけしか見えていないので、その原因を突き止めることはできない。だから、ヒカリはとりあえず琥珀を保健室に連れて行くことに決めて、彼を抱えて立ち上がった。琥珀が起きたら絶対に許されないだろう、お姫様抱っこをして。



    ◇◆◇



(さて、これはどうしたものかしらね)

 唄は無表情で目の前にいる三人の女子生徒を見た。

 今、唄がいるのは高等部の校舎裏。女子生徒三人は、まるで漫画か何かのように、唄の周りを腕を組んで立っている。三人の内一人は、壁にてをついてガンをとばしてくる。

 唄は呆れながら、冷たい目でガンをとばしてくる女子生徒を見つめた。

「何よ、その目。あたしにケンカ売ってんの?」

 喧嘩を売っているのは貴女達よ。と言ってやりたいが、後に面倒なことになるので唄は何も言わない。その替わり、目の前にある顔から目を逸らす。そして口元に傍から見たらわからない薄い笑みを浮かべた。

(何て、つまらない人達)

 そう思い、もう一度前に女子生徒を見る。

 壁に手を突いてガンを飛ばしてくる生徒には見覚えがあった。

 腰まで伸ばした茶髪に、特徴的な赤っぽい瞳。二年生になってから、よく見る機会があるので覚えている。彼女はクラスメイトの高橋明菜(たかはしあきな)だ。彼女の後ろにいるのは顔も髪型も同じ双子の女子生徒だが、こちらは見覚えがない。違うクラスだからだろう。

「何がおかしいんだよ!」

「教えなさいよォ」

 唄の笑みに気づいたのか、双子が同じようで違う、それぞれの笑みを浮かべて言ってきた。

「一体、私に何の用なの?」

 明菜がいるというこおで大体は予想できているが、唄はあえて尋ねた。

「言わなくっても気づいてんじゃねぇの?」

「ウチラの風羽様にぃ、近寄らないでくれなぁい?」

 双子を一瞥して、歌は明菜を見る。

 明菜は、赤っぽい瞳をギラギラさせ、口を不気味に歪ませている。

「あんた、頭の長だけが取り柄で、能力はどうってことないって噂よね。……喜多野君にこれ以上近寄ると、あたしどうしちゃうかわからないわよ」

 くふっと笑い声を出し、面白そうに表情を歪めた明菜は、壁から右手を放すとそれを唄の顔の前に掲げた。

(この子の能力は、確か……)

 明菜の右手が不気味に光り始めた。その時、

「君達、そんなところで、一体何をしているんだい?」

 明菜と双子の後ろから、無感情な声が響いた。唄はその声の主を見る。

 風羽が、無表情だかどこか冷酷な双眸で、明菜達三人を見つめていた。

(これはグットタイミング。……でも、何か風羽の様子おかしいわね)

 口元に笑みを浮かべる唄の前で、明菜と双子は口にてを開けると顔を蒼白にさせ、小さく悲鳴を上げた。

「喜多野君……」

 明菜が小さい声で呟く。彼女はさっきとは打って変わって、小さくか弱い様なこえのまま、言い訳を言い出す。

「あ、あたしたちわね、ただ……ただ、野崎さんに用があってね、それで……」

「理由なんてどうでもいいから、とにかくここからいなくなってくれないかい?」

 冷めた声で風羽は言う。

 明菜と双子は、顔をさらに青くすると、「ごめんなさい」と言って、慌ててこの場から逃げて行った。

「大丈夫かい? ……唄」

 無表情を解き、風羽は少し眉を潜めて聞いてくる。

「ええ、これぐらいなんともないわ。どうでもいいもの」

「どうでもって……そんなこと」

「それより、さっきここにつれてこられる前、ヒカリが保健室に入って行くのを見たのよね。後姿だけだったからよくわからなかったけど……。馬鹿でも風邪を引くのかしら?」

「馬鹿でも人間だからね。風邪ぐらい引くんじゃないのかな。……それにしても、こんな大事な時期に風邪なんて引かれると困るね。あさっては、アレなのに。

 けどちょうどいい。ちょうど君たちに話があったんだ。大事な話がね」

 表情を暗くさせ風羽が言う。首をかしげ唄は尋ねた。

「話って、何?」

「それはヒカリもいるところで話したいと思ってるんだ。だから、とりあえず保健室に行こう」

「そう。わかったわ」

 唄はそう言うと、中履きに履き替えるべく下駄箱に向かって歩いて行く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ