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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第三曲 三日目
22/55

(9) 夕暮れ時から夜へ

 空は陰りを浴び、オレンジの色合いが多くなってきている夕暮れ時。

 唄と風羽は、自分の家に帰るための路についていた。

 相変わらず無表情の風羽を見上げ、唄は呆れた様な表情を浮かべる。

「もう、こんな時間ね」

「そうだね」

「ねぇ、風羽。聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」

「……なんだい」

 風羽から聞いた『風林火山』の情報を聞き終わった後、ずっと疑問に思っていた事を、唄は特に躊躇うことなく聞くことにする。

「貴方は何であんな情報を知ってたの?」

「それは、僕の父が刑事だからで……」

「確かに、そうかもしれない。けど、違うわよね?」

 唄の言葉に風羽は軽く目を見開く。少し動揺を見せるが、軽く息を吐き、風羽は目線を逸らすとボソリと呟いた。

「どうして、そう思うんだい?」

「貴方は、本当にお父さんから聞いたの? 刑事には守秘義務というものがあるんじゃないかしら? 家族だったとしても、あんな極秘事項を話すとは思えないわ」

「…………」

「ねぇ、貴方は、誰からあの情報を聞いたの?」

 真剣な表情を唄はする。風羽は気圧されたように一歩後ろに下がり、立ち止まった。唄も立ち止まり、俯いて風羽を見る。彼は、眉を潜め、どうしようか考えるかのように目をウロウロさせている。

 そして、どうするか決めたのか、風羽は唄の目を見て口を開いた。

「兄、だよ」

「お兄さんって、勘当された?」

「ああ。……兄は、『情報屋』をやっているんだ。朝、君から彼らの事を聞いた時、少し気になって調べてもらった。琥珀の尾行をする前にメールが届き、さっきの情報を知ったんだ」

「貴方のお兄さんって何者? そんな短時間で、何であんな事を調べられたのかしら?」

 唄は考える仕草をする。

「兄は、異能者なんだ。何の能力をもっているかは弟の僕にも分からないけど、情報収集に適した能力をもっていることは確かだね。兄は、その力を使って調べてくれたんだと思うよ」

「何で、それを言わなかったの? 最初っから、兄から聞いたとかいえば、一々自分の父親が刑事だってことを告白しなくってもよかったのに。

「――兄から……『情報屋』から聞いたと言えば、水練が怒ると思ったんだ」

 その言葉に、唄は大きく目を見開く。そして、口を歪めると、「ははっ」と笑い声をもらした。

「なるほどねぇ。確かに、水練は怒るわね。自分がいるから意味ないやろーって怒鳴って、一生口を聞かんとか言いそうだわ」

 珍しく笑っている唄を眉を潜めて一瞥し、風羽は顔を逸らすと歩き出した。

 あいつならやりかねないものね、と笑い声を上げながら言うと、唄は風羽の後について歩き出す。

 空は夕暮れ。それに、少しずつ闇が侵食し始めていた。



    ◇◆◇



「ここでいい。降ろしてくれ――八又」

 八つに分かれた尾を持つ灰色のオオカミに一声かけると、琥珀はある建物の屋根の上に飛び降りた。宙に浮いていた八又と呼ばれたオオカミは、その言葉を聞き軽く首を振ると煙のように消え去り、一枚の式の姿になる。それを琥珀はズボンのポケットに入れる。

 口元を隠すように巻いている黒い布を少し下げると、琥珀は暗闇に向かって声をかけた。

「いつまで隠れているつもりだ。早くでて来い」

 夜のため、屋根の上は暗闇に包まれており、人の気配が窺えない。だが、不意に陰が浮かび上がった。

 月に照らされて浮かび上がるピンク色のシルエットが不機嫌そうに呟く。

「うるさい、琥珀。今出ようとしていたところだよ」

「ふん。貴様がそのまま出て来ないとめんどくさいので、一々声を掛けてやったんだ。ありがたく思え」

 琥珀と同じように口元に黒い布を巻いている少女――水鶏は、琥珀と目を合わそうとはせず、月を睨みつける。

「陽性から頼まれたからね。……嫌でも出てくるさ」

 ピンク色のツインテールの髪の先を軽く弄りつつ、水鶏はぶっきらぼうに言う。

 そんな彼女の様子を見て、琥珀は灰色の瞳を鋭くして、少し唇を噛む。

(こいつはいつもいつも……ッ。なんで、ボクと目を合わせようとしないんだ? ――まあ別に、ボクにとって姫様以外はどうでもいいことだけどな)

 琥珀は水鶏を睨む。

「まあ、いい。――そろそろ時間だ。陽性が()を始める前に、ボク等が何らかのアクションを起さなくてはならない」

 琥珀はそう言うと空高く飛び上がる。そして、もう一つの能力を使うべく、身体全体に〝気〟を纏わせた。その〝気〟を琥珀は右足に集める。

(最初だから、これぐらいでいいだろう)

 琥珀は目を閉じて軽く深呼吸をすると、地面に近づいていくとともに、屋根の上に〝気〟を纏わせた右足を叩きつけた。

 ――ドッガァンッ!!

 爆弾が爆発するかのような轟音とともに、その場に警報が鳴り響いた。

 屋根の上に、数人の黒い服を着た男が上がってくる。

「やるんだったら、先に声を掛けてよね」

 文句を言いながら、水鶏は頭を隠すためにフード付のマントを被る。すっかり黒ずくめ姿の彼女を一瞥すると、琥珀は黒服共を見た。

(ロボットみたいな目をしている。……主人の命令を忠実に聞く、心のない下僕――)

 琥珀は小さく舌打ちをする。そして、黒服を眉を潜めて見ている水鶏に声を掛けた。

「水鶏、行くぞ」

「わかってる。……けど、アンタ先に行っとくけど、|殺したらいけないからね《、、、、、、、、、、、》」

「……できたら、そうする」

 背を向けながら言ってくる水鶏に、琥珀は背を向ける。

(殺さないように、か。……陰陽師の力をおおっぴろにできない分、もう一つの力を使わなければならない。いつもより力が落ちるだろうから、大丈夫だろう)

 身体全体に〝気〟を纏わせると、琥珀は右手を握り締める。

(ボクの体術如きで、こいつ等が死んだとしても、それはボクのせいではない。――それは、こいつらが弱かっただけのことだ)

 ニヤリと歪めた口元を再び黒い布で隠すと、琥珀は足を一歩踏み出した。

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