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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第三曲 三日目
21/55

(8) 衝撃的な告白

「ふ~ん。尾行失敗したんやねぇ」

 足を組み、水練は微笑みながらそう言った。表情とは対照的に、声は低く冷たい。唄と風羽は無表情で近くにある椅子に座っている。

 自分の三つ編みを手で弄びながら、唄は夕方のことを思い出しながら、口を開く。

「あの子は思ったよりも強かったわ。しかも能力を二つ持ってるみたいだし。それに……」

「彼の殺意は、本物だ。最後のあの言葉は、限りなく〝本気〟だよ」

 途中で口をつぐんだ唄の変わりに、風羽が言葉を紡いだ。

「僕の力だけじゃ、どっちみち敵わなかったかもしれない。本気を出したとしても、恐らく」

「で?」

 ニッコリと同じ歳にしてはまだ幼さを残している顔が微笑む。水練はゆっくりと組んだ足を戻す。笑みを刻んでいる桜色の唇が、先ほどの問いをもう一度言う。

「で?」

「いや、でって言われてもね」

「で、それがどうしたんや? そんなんで尾行を途中でやめたと? そんなもん、死に物狂いでどうにかできたやろ」

 なんて理不尽な、と思ったものの唄は何も言わない。風羽に任せておくことにする。

(後はよろしくね、風羽)

 彼は自分よりも言葉の扱いがうまいので、言い訳とか何かで何とかしてくれるだろう。

 そう安心していた唄だったが、風羽はその思いを裏切り一言呟いた。

「……すまない」

 てっきり反論してくると思っていたのか、水練は拍子抜けの顔をする。彼女の目がこちらを向くが、唄はため息をつくことしかできない。

(まあ、いいけど)

 別にあまりどうでもいいことだったので、唄はやはり何も言わない。

 風羽を見ると、彼は若干顔を俯かせているため、表情を伺うことができない。顔を黒髪が覆っている。様子が少しおかしい気はするが、唄の知ったことではない。

 回転椅子を回し、水練はパソコンの画面を見つめる。その背中に、何かを躊躇っていた風羽が声をかけた。

「少し、話したいことがあるんだが」

「なんや?」

 無意味にマウスを操作したまま、水練が答える。

 物憂げな表情をした風羽が、何かをためらうかのように何度か口を開閉する。

「なんや、風羽。用があるならはよ言い」

 じれったいなぁと水練は愚痴を言いながら話を促す。

(なにかしら?)

 唄は風羽を見る。風羽は俯き何を考えているのか顎に手を当てている。だが不意に顔を上げると、迷いつつも口を開いた。


「僕の父は、刑事なんだ」


 水練がマウスを操作する手が止まった。同時に、唄は大きく目を見開く。

「「えっ?」」

 二人の声が重なった。クルリと椅子を回転させると、水練は困惑した顔で譜羽を見た。

「どういうことや?」

「……別に隠していたわけじゃないんだが、すまない」

「あたしはそんなことを聞いてるんやない。なぜ、今それをいうんや」

「彼ら――『風林火山』と関係あるかはわからないけど、二年前に父から聞いた情報(、、)があるんだ」

「情報?」

 水練が訝しげな顔をする。「ああ」とやはり無表情のまま風羽が言った。

 二人の姿を唄は眉をひそめたまま見つめる。

(風羽が何かを隠していることは知ってたけど……まさか、こんな大切なことを黙っていたなんて……)

 風羽とはあくまで仕事上のパートナー。だから、すべて自分のことを話せとは言えないよ。唄自身も全てを曝け出しているわけではないし、ヒカリはどうだか知らないが、水練は色々と何かを隠しているだろう。

 けど、こんな〝大切〟なことを……自分の父親が刑事だということを、なぜ今の今まで隠していたのか。

(そりゃあ、いきなりそんなことを言われると、信じられなくなるかもしれないけど、最初に言ってくれたほうがまだよかった。……安心できた)

 風羽とはかれこれ一年以上は一緒にいる。今言われて全ての信用がなくなるわけではないが、こんな〝大切〟なことを隠されていたとなると、唄はこれから風羽とどうやって接していけばいいのかわからなくなる。

(まあ、こいつに限って裏切るとか……そういうことはないと思うけど)

 信用は少し薄れるものの、まだ唄は風羽のことを信じている。

 チラリと風羽が唄を見る。すぐ逸らし、彼は水練を見た。水練は不機嫌そうに口を歪めていた。

「情報って、何や?」

「風林火山のことだ」

「それは知ってる。内容を聞いてるんや、内容を」

「僕の父は刑事だ。それは先にも言ったよね。僕の父は警察の中でも上の方の階級で、とっても厳しい人なんだ。小さい頃から、僕はとても厳しくしつけられてきた。……数年前までだけど。

 僕には兄がいる。けど、兄はどうしようもない人で父に逆らい勘当されてしまった。その兄の変わりかな、父は、僕を父と同じ刑事にしようとしている。それは今でも変わらない。もともと『喜多野』家はは男は皆刑事という」

「そんなことは聞いていない! そんなことよりも、早く『風林火山』の情報というものを教えろや!」

 前置きだったのだろう。大分長い前置きに嫌気が差したのか、それとも早く情報を聞きたかったからか、水練が叫んだ。

 風羽は軽く目を見開くが、ため息をつくと「ごめん」と言って再び話し始めた。

「わかった。早速言うよ。――『風林火山』についての情報(、、)を……」

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