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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第三曲 三日目
18/55

(5) 報告・下

 朝のホームルーム開始のチャイムが鳴った時、唄達はちょうど図書室に脚を踏み入れたところだった。

 唄の案内で日があまり当たってない席――今朝怪しい少女とであった場所に向かうと、四人は男女別々に椅子に座った。

 席に座ってすぐm水練はみんなの顔を見渡すと、口を開いた。

「今日来たのはな、一昨日あった琥珀とか言う少年のことを調べとって、ある事実を知ったからや」

「それって、なんだ」

 水練の向かいに座っていた光りが声を上げる。でも、それを無視して水練は唄と風羽の瞳を覗き込むようにしてみる。

「琥珀はなァ――――――別名でこの学園の中等部に通ってるで」

「マジで!?」

 水練の台詞にヒカリが大きな声で叫んだ。でも唄と風羽はまゆを顰めただけだ。

 つまんないのーと水練は呟くと、どこから取り出したのかノートパソコンを机の上に置く。

「まあ、ええわ。とりあえず、水練のクラスだけ伝えておくで」

「ああ、頼むよ」

 風羽が言う。水練は操作していた手を止めると、ノートパソコンを唄と風羽に見えるようにする。ヒカリがいるところからは見えないのか、彼はブツブツ言いながらも立ち上がると、風羽の隣に移動した。

 それをチラリと一瞥した唄は何事もなかったかのようにパソコンの画面を覗き込む。

 そこには――

「これ、あの子のこと……?」

 昨日あった黄色のおかっぱっぽい髪形をした少年写真があり、その横にはズラズラと細かい文字が並んでいた。

「ああ、そうや。調べるのは苦労したで。何せ、ちゃんとした名前も知らんかったからなァ。けど、なんとなくこの学園の生徒名簿を調べてみたら、ビンゴ。あったんや、同じ顔がな。メガネをかけてるけど、絶対コイツは琥珀や」

「たしかに、ここまで嫌いで変な髪形のやつはいねーな」

 ヒカリがそういいながらよく見ようと身を乗り出そうとしたが、迷惑そうな表情をした風羽に押し返される。「なんだよ、もう!」と光は反論するが、風羽は無視。ジーと琥珀の写真の横にズラズラと並んでいる説明文を読んでいる。

 唄はそんな二人のやり取りを視界の隅に納め、風羽と同じように説明文を読み始める。

白銀ハク(しろがねはく)。これが彼の本名?」

「さあ、それはわからへん。この学園、偽名で通ってるやつ、何人かいるからなァ」

 幻想学園には名のある名家の子孫などがそれを隠す為や、ただ単に黒歴史を持ってるからなど、偽名で通っているものがいる。普通学校では無理だが、ここ幻想学園では許されているのである。

「まあ、それはどうでもいいことね。それよりも、彼のクラスは……」

「中等部の『3-B』みたいだね。へぇ、学年順位は三十四か。思ったより上の方なんだね」

 唄の言葉を遮り、先に説明文を読んでいた風羽が呟く。

「……そうね」

 少し不満にもいながらも、唄はその情報をありがたく受け取っておくことにする。

 パソコンの画面から視線をはずすと、水練を見る。彼女は誇らしそうな笑みを浮かべていた。まるで「すごいやろ。ほめろほめろ」とでもいいたいかのように。

 だが、唄はそれを気にとめず、水練に語りかけた。

「水練、調べて欲しいことがあるのだけど」

「……なんや」

 不機嫌そうな顔の水練。若干視線を逸らしている。

「この……白銀ハク? の仲間らしき二人のことなんだけど……」

「はあ、なんやそれ!」

「なんだよ、それ!!」

 水練に続き、ヒカリが声を上げる。だが、それはやはり無視された。

「はよ話しぃ」

 一段と不機嫌そうな表情になった水練は、パソコンを自分の元に戻し、操作を始める。

 それを見て飽きれたようにため息をつくと、唄は話し始めようとする。だが、その前に何かを思い出したかのように風羽が口を開いた。

「そういえば、今日の一時間目の授業って……。ヒカリ、早く行った方がいいんじゃないかな?」

「え? 何で?」

「だって、今日の一時間目は……」

 風羽は少し口元に笑みを浮かべる。それを見て少し思案したヒカリは、瞬間表情を蒼白にした。そして大きな声で叫びだす。

「ああああああああああああ!?やっべぇ。俺、もう教室戻るぜ!」

「それがいいよ」

 風羽がそう言ったときには、もうヒカリは図書室から走り出て行く所だった。

 それらのあらましをやはり呆れ顔で見ていた唄は、そろそろしびれを切らして今にでも怒鳴りだしそうな水練に向かい話し始めた。

 遠くで、一時間目が始まったことを知らせるチャイムが鳴り響く。



    ◇◆◇



 場所は変わり、一時間目が始まって数分たった唄のクラス。一時間め担当の先生が出席をとり始めていた。

 一時間め担当の先生は、とても背の高い女性。短い金髪は艶を浴び、スタイルのいい体身体を紺色のスーツで包み込んでいる。フランスと日本人のハーフで、高い鼻に整った顔立ちのその女性の名は、桐野レイカ。

 青みのかかった瞳でクラスの中を見渡していた桐野は、ある一角を見て眉をひそめる。

「なんだか、人が足りないような気がしますね」

 それを聞いた数人の生徒はビクッと肩を振るわせる。

 きっと、野崎唄たちのことを言っているのだろう、と思った一人の男子生徒が桐野の視線をたどる。だが、彼女が見ていたのは唄と風羽の席がある窓側ではなく、廊下側にある中澤ヒカリの席ただ一つだけだった。それを悟った瞬間、男子生徒だけでなく、他のクラスメイト数人の顔が蒼白に染まる。

((やばい……))

 誰も桐野とは目線を合わせないように下を向く。

 その時。

 ――――ガラッ。

 後ろのドアがゆっくりと開き、ヒカリが中に入ってきた。

 クラスメイト達が息を呑みことの成り行きを見守る。

 ヒカリは慌てて中には行ってくると、すぐに自分の席に座った。そして、桐野の顔を恐る恐る見て言い訳をしだす。

「すみません。ちょっと用があって遅れてしまいました」

 だが、桐野はそんなことは聞いていなかった。ツカツカとヒカリの机の前まで歩いて行くと、バンと音を立てて机の上に手を置く。

「あたくしの授業に遅刻するなんて、あなたはあたくしを嘗めているのですか!? 同じ光の精霊使いで、あたくしの精霊より強い精霊と契約しているからと言って、あたくしの授業に出ないつもりだったのですか?」

「え、いやぁ……別に、そういうわけじゃあ……」

「きみは、精霊を使うこと以外何一つ駄目で、いつもチャラチャラしてるのですから、ちゃんと出ないと――」

「あの、そろそろ授業を始めた方がいいんじゃないんでしょうか?」

 桐野の言葉を遮るかのように、ヒカリの近くの席にいる茶髪の女子生徒が声をかけた。

 それにより我に返った桐野は、コホンッと咳払いをするとヒカリに背を向け教卓に戻っていく。

 そして、一時間目の授業はやっと開始された。

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