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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第三曲 三日目
17/55

(4) 報告・上

 予鈴が鳴ると同時に、唄は後ろのドアから教室の中に入った。早歩きで自分の席に向かって行く。風羽は前の席で本を読んでいたが、唄が近くまで行くと彼はゆっくり顔を上げた。

「おはよう、唄。今日は来るのだ遅いけど、どうかしたのかい?」

「別に、何でもないわ。少し図書室に寄っていただけよ」

 唄はぶっきらぼうにそう言い、自分の席に腰掛ける。そして背を向けて本を呼んでいる風羽の後姿をジッと見つめた。

 頭の中にさっき少女と交わした会話がよみがえってくる。

 ――――喜多野風羽から何も聞いていないのかい?

(あの子の事を風羽は知ってると言ってた……)

 それを確かめなければいけない。けど、彼が何も言ってこないって事は、少女の言葉は嘘だったのかも知れない……。

(いや、それはないか。あの子の口振りから考えると、多分本当の事)

 その時、唄の思考を読み取ったかのように、風羽がいきなり振り返った。

「……唄。何か言いたい事でもあるのかい?」

 メガネを直しつつ、彼は唄を見つめる。

「別に、何もないわ」

「嘘、だね。君はさっきから僕の背中を見てただろ。それぐらいわかる。それに、朝の挨拶をした時から、僕に何か言いたいことがあるように見えた」

 違うかい、と何もかも見透かしたかのように風羽が言ってくる。

 唄は不機嫌そうな顔をすると、風羽を睨みつけた。

「貴方は、私に何か言わなきゃいけないこと、ないの?」

「……何の、ことだい……」

 明らかに動揺している。見た目はいつも通りだが、瞳があたりを彷徨っている。風羽はゆっくりと顔を逸らす。

 それを見て唄は口元に笑みを浮かべると、

「まあ、それなら今朝あった事はなしてあげる。……でも、その代り、貴方が隠している事も教えてもらうわよ」

「…………」

 顔を逸らしたまま無言の風羽を一瞥すると、唄は今朝図書室であった事を話し始めた。



「そんな事が、あったんだね……」

 唄の話を聞き終わると、風羽はそう呟いて再び黙り込んだ。

「ええ。……私が話したんだから、貴方が隠している事も話してもらうわよ」

 唄が声をかけても、風羽は何の反応も見せない。

(聞こえているのかしら?)

 そう思いながらもう一度口を開こうとした時、風羽が唄の目をジッと見つめて口を開いた。

「昨日の――」

 その時、もうすぐ朝のホームルームが始まるというその時、教室の後ろのドアのあたりで大きなざわめきが起こった。



「何かしら?」

 唄が呟く。

 ざわめきの方を見てみると、窓やドアからとクラスメイトのほとんどが廊下を覗いている。よく見ると、その中にヒカリの姿もあった。後ろから頑張って廊下を覗こうとしているが、彼は平均より背が小さいので見ることができないようだ。

 唄と風羽は顔を見合わせて無言で頷くと、ヒカリの近くまで歩み寄って行く。

「ヒカリ、何があったか知ってる?」

「っわ! ……あ、唄と風羽か。いきなり話しかけんなよ」

 ビクッと肩を震わせヒカリは振り向く。

「俺だってしらねぇよ。前見えないし」

「やっぱりね。貴方、背が低いから」

「うるせーよ!」

 ヒカリの大きな声に、周りにいたクラスメイト数人が振り向いた。だが、唄の顔を見た瞬間、急いで見なかった振りする。中には舌打ちをする女子もいたが、それはたぶん風羽のファンクラブかなんかだろう。

 それを冷たい目で見ると、唄は風羽と光をつれてクラスメイトを掻き分けながら後ろのドアに向かっていく。

 そして、ゆっくりとドア越しから廊下を見た瞬間、唄は思わず声をあげた。

「水……練……ッ」

 そこには、ウェーブのかかった水色の髪の毛を靡かせ、無地の黒ワンピースの上から白衣を羽織った美少女――七星水練がいた。彼女は一つ一つ教室を確認しながら廊下の向こうから歩いてきている。

「えっ、水練が!? なんで……」

 ヒカリはそう言いながら廊下を見ると、不気味なほどに黙り込んだ。風羽も無言でジッと水練を見ている。

(何でここに水練がいるのかしら?)

 水練はこの学園に在籍、彼女は学園にはほとんど来た事はない。だが、教室にはちゃんと机が用意されているらしい。

 少し思案したものの、唄は廊下に出ると水練に声をかけた。

「水練、ここよ」

 唄のその短い声と言葉に、水練は顔を上げると、水色の瞳をきらめかせて微笑を浮かべた。そのまま廊下を走ってくる。

 その行動を見たクラスメイトは、

「なんだ、あいつらと」「誰なのかしら」「可愛い子だ」「初めて見るね」「でもまさかあいつらと」

 などなど口々に呟くと、それぞれ散って行った。

 唄の近くまで来た水練は見た目とはギャップのある方言交じりの口調で喋りだした。

「唄、このクラスやったんか。……それにしても風羽もヒカリも一緒のクラス何やね」

 水練は風羽とヒカリを見ると、二人はなぜか一礼をする。

「で、何の用なの、水練?」

「ああ、そうそう。ちょっと話があんねん。あのなァ……」

 そこで水練は言いかけた言葉をとめると、唄の後ろにいるクラスメイトを見た。みんな席に座ってるが、明らかに聞き耳を立てているのが数人いる。

「いや、ここでは話せんから、ちょっと場所変えるで」

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