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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第三曲 三日目
16/55

(3) 早朝の出会い

 学校の門の少し手前まで来ると、唄は足を止めて息を整える。家から学園までは走って約三分。いつもより随分と早く出てきてしまったので、門の辺りにはまだ人がいない。

 軽く深呼吸をすると、ゆっくりとした歩行で門まで歩いて行く。



 唄は図書室の中に入って行く。朝早いので、ここから見る限り人は誰もいない。

 今から教室に行ってもいいのだが、人が少ない内は正直言って煮詰まる思いをしてしまう。人が多いときはあまり気にしない唄だが、流石に人が少ない時に風のファンクラブの一員の冷たい視線を受けるのは嫌だ……。

(ああ、何を考えているのかしら)

 唄は首をブンブンと振り近くにある本棚から適当に本を取り出すと、日があまり当たっていない席に向かって行く。

 日が当たっていないので、そこはとても暗い。影になっており、遠くから見るとそこには誰もいないように見えた。が、その席まで歩み寄って行くと、そこには一人の少女がいるのが分かった――――。

 その少女は、黒髪を後ろで一つに結っており、ピンクのメガネを掛けている。

 一見ただの真面目な少女だと思った唄だが、その少女の周りにはただならぬ気配――いや、殺気が漂っているように思える。

 唄は少し逡巡した後、軽くため息をついて少女の近くまで歩み寄って行く。そして、その少女に声をかけた。

「おはようございます。前の席に座ってもよろしいかしら?」

 本当は違う席に座ってもいいのだが、口から勝手に言葉が出ていた。

 少女は顔を上げて紫色の瞳で唄を見つめると、ゆっくりと頭を下げて前の席を示した。そしてまた本を読み出す。

(何のかしら……?)

 不思議に思いながらも唄は少女の前の席に腰を下ろし、本を読み出した。その時――。

「怪盗メロディー……」

「え?」

 少女がボソッと呟いた。

(もしかして……いや、そんなわけがない。学校には風羽やヒカリ以外に、私が怪盗メロディーだって知っている人はいないんだから)

 本で口元を隠して、唄が少女をみた瞬間、丁度目があった。

 少女はジッとキツイ瞳で見つめてくる。

 何なのかしら、と思いながらも唄は口を開く。

「あの……。何か、私に用があるのかしら?」

 すると少女は大きくため息をついた。そして口元に笑みを浮かべる。

「アナタ、怪盗メロディーにソックリね。まるで本物を見ているようだわ」

 怪しい微笑を浮かべながら少女は唄をジッと見つめてくる。

 唄は軽く目を見開いたものの、すぐ無表情に戻す。

「人違いよ。私は怪盗メロディーではないわ」

「そう」

 といい少女は目線を本に向ける。

 よかった、と思いながら歌が胸を撫で下ろした時、少女が再び目線を上げた。口元に怪しい微笑を浮かべる。


「ねぇ、野崎唄サン。次の獲物は難しいと思うけど、がんばって頂戴、ね?」


「え……ッ」

 唄は目を大きく見開いた。

(なぜ、この子が私の名前を知ってるの!?)

 心の中の葛藤を隠し、平静を保ったまま唄は少女を見る。少女は何かを確信しているかのように、笑みを浮かべたままジッと見つめてくる。

「驚いているようね、野崎唄サン。最初に言っておくけど、初めて会った時からアナタが怪盗メロディーだって分かってたわ。……アタシにはお見通しよ」

「な、なぜ……なぜ、貴女は、私が怪盗メロディーだって分かったの? 一目見ただけでは分る筈がないのに、なぜ……。ねぇ!」

 思わず、唄の口から肯定とも取れる大声が出てしまった。口を閉じて、慌てて辺りを見渡すが、図書室内には誰もいなかった。安堵のため息をつく。

 ククッと少女は笑い声を出す。そして、さっきとは一変して口調を変えた。

「解せないって顔をしているのねぇ、野崎唄。……いや、怪盗メロディーサン。もしかして、喜多野風羽から何も聞いていないのかい? あはっ、アンタも信頼されていないんだねぇ。カワイソウに」

「風羽が……なぜ。それよりも、貴女は何者……?」

「何者? なんで、それをアンタに教えないとならないのさ。……まあでも、この姿だけなら見せてあげようか?」

 そういうと、少女はメガネをと髪の毛に手を置き、それを――取った。

 黒色の髪――カツラの下から現れたのは、綺麗なストレートのピンク色の髪の毛。

 少女は軽く髪の毛に触れると、紫色の瞳を煌かした。

「じゃあ、そういうことで。また会った時、よろしくね」

 そして口元に笑みを浮かべたまま、少女は踵を返す。そしてメガネとカツラを持ったまま歩き出した。

 唄は何かを言おうと口を開きかけたが、その前に少女が吐き出すかのように囁く。


「アタシもこの学校に通っている。会いたかったら、探し出すことだね」

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