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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第三曲 三日目
15/55

(2) 父と母

 雲ひとつない青空の下。自室で、唄は大きな欠伸をして目を覚ました。

 窓から見える紅葉を背に、唄は布団から這い出すと、机の上に置いてある鏡を覗き込む。栗色の髪の毛を梳かし、三つ編みにする。いつもやっている事なので五分も経たずできた。寝巻き姿からブレザータイプの制服に着替え、メガネケースからメガネを取り出して掛けると、スクールバックを持って一階に降りて行く。

 一階に下りてすぐにある台所の中に入ると、両親はもう食卓についていた。

「おはよう。お父さん、お母さん」

「ああ、おはよう」

「おはよう、唄」

 挨拶を交わし、唄も食卓につく。

 机の上にはもう朝食が用意されていた。今日の朝食は普通の和食。ご飯と味噌汁と少しのおかずだ。時々パンだったりするが、ほとんど和食が染み付いている。

 いただきますをして歌がご飯に手をつけ始めた時、丁度付いていたテレビからアナウンサーの声が聞こえてきた。

【さっそくですが、今日のニュースです。あの『怪盗メロディー』がまた出現するようです! 今度の獲物は、なんと……あの『虹色のダイヤモンド』だそうです。予告状によると、犯行日時は今週の土曜日の午後の十一時……】

 唄はご飯を食べながら横目で見ていたテレビから視線を外す。

 その時、新聞と睨めっこしていた父がいきなり顔を上げた。


「……唄。今度の獲物、アレにしたのか?」


 気がつくと、父の近くに寄り添うように母が立っている。二人の表情は少し寂しそうに見えなくもない。

 実は、唄の父とは母は元怪盗。母は元々あるサーカス団で軽業師として活躍していた。父は同じサーカスで下働きをしていたらしいが、ある事件をきっかけに、ある日二人はサーカスから抜け出した。それから、普通の生活を知らなかった二人は、最初は盗賊として生活をしていたが、いつしか怪盗と呼ばれるようになったらしい。

 でも、それは二年前までだった。それからは、それなりに社会について勉強してきた二人は、会社に行ったり、主婦として生活していたりしている。

 ついでに、二人は『怪盗メロディー』として活躍していて、唄はその二代目だったりする。

「アレはやめとけ。お前には無理だ」

「……何で?」

「アレは、普通の宝石とは違う。お前如きの力では、盗む事なんてできやしない」

 父が厳しい顔をしている横で、母は顔を伏せている。その母の目には、何か悲しい事を思い出したかのように少し潤んでいた。

(……もしかして)

 唄は何かを悟ったかのように口を開いた。

「父さん達、アレを盗もうとした事があるの?」

「……ああ」

 そうもらす父の言葉はとても小さかった。

(何かあったのかしら。……dめお、そんな事は関係ないわ)

 そう、関係ない。唄はため息をつくとゆっくりと口を開いた。

「何があったのかは知らないけど、父さん達の忠告は無視するわ」

 母が目を見開く。

「私は怪盗。絶対に盗むと決めた獲物は、必ず盗んでみせるもの! それに、私は一人じゃない。仲間がいるから大丈夫よ」

 大丈夫、唄は自分に言い聞かせるかのようにもう一度心の中で吐き出すと、残っていた味噌汁をすべて飲み干す。

 そして箸を机の上にバンッと音を立てて置き、彼女は立ち上がった。

「行って来ます!」

 父と母の返事が来る前に、唄はカバンを持つと台所から出て行った。

「待つんだ、唄!」

 いつも冷静な父が大きな声で呼びかけてくるが、彼女はそれを無視する。

 ローファーを履き、家のドアを開け放つと、唄は学園に向かって駆けて行った。

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