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彼方へ届くファンタジア  作者: 槙村まき
第三曲 三日目
14/55

(1) 動き出す者達

 夜中の一時過ぎ。

 警視庁のある一室に数人の刑事が集っていた。

 机の上に一枚の紙らしき物を置き、それをじっと覗き込んでいる。

 その数人の刑事の中、険しい表情をした四十代半ばぐらいの男性が声を上げた。

「また現れるか、怪盗メロディー」

 太い眉を寄せ、一枚の紙を凝視する。

 その時、部屋の扉から一人の若い男性刑事が入ってきた。ゆっくりとした動作で、隠れるかのようにそろりそろいりと太眉の男性の後ろを通ろうとする。――が。

「遅いぞ、佐々部(ささべ)。十分の遅刻だ。……それより、その格好は何だ?」

 すぐにバレ、いきなり後ろを振り向いた太眉の男性に、佐々部と呼ばれた若い刑事は両手を挙げる。

「嫌だなァ、(かつ)警部。この髪色は地毛だって何度も言ってるじゃないですか。それと、今時の若者は、こういうスーツの着方は普通にしていますよ」

 佐々部は胸を張り、太眉の男性――勝に言う。

 そんな彼の格好は、ハネにハネまくった肩ぐらいまである紺色っぽい髪の毛。耳にはそれぞれ五つの種類がバラバラなピアスがついており、首には派手なネックレスが二つ。ネクタイはつけていない。派手な白いスーツを着ているその姿は、刑事というよりも、やの付くあの職業をしている人のように見えなくもない。

「そう、か……? ワシからすれば、少しどころか大分派手過ぎると思うが……」

「ははっ。警部も、少しファッションを見て勉強した方がいいですよ」

 勝は意味がわからないというように太眉をひそめる。

(最近の若者は、こんな格好をしているのか?)

 考えようとして、今は大事な会議中だという事を思い出した勝は、コホンッと持ち直すかのように咳払いをすると、机の上にある紙に目を向ける。

「まあ、いい……。それよりもこれだ。この予告状が、ちょうど夜の十二時に警察に届いた」

 どうして呼ばれたかは知っていたが、その指につられて佐々部は髪に目を向ける。

 そこには、こんなことが書かれていた。


【月が輝く満月の夜。午後十一時丁度に、佐久間美鈴様の所有する『虹色のダイヤモンド』を頂に参る。――――――――――怪盗メロディー】


(相変わらず、といった内容だな)

 佐々部は顔には笑みを浮かべたまま、心の中で低い声で呟く。

 そして実際には明るい声を出し、

「月が輝く満月の夜……って、確か今週の土曜日でしたよね。時間はいつもどおりの十一時か。相変わらずですねぇ、怪盗メロディーって」

「今更そんな事は関係ない」

「ははっ。確かに」

 苦笑する佐々部を横目で流し見て、勝は部下達に向かい大きな声を張り上げる。

「土曜日の午後十一時! 佐久間家に怪盗メロディーが盗みに入る! 厳重な警備で出迎えるから、お前等、心して懸かれよ!!」

 佐々部を初めとする部下の刑事たちは、声をそろえて返事をした。

「はい!!!!」



    ◇◆◇



 同じ頃――。

 古い屋敷の一室には、白亜を初めとする四人の人物が集っていた。

 瓦解陽性は、一礼すると御簾の向こうにいる白亜に向かって口を開く。

「すみません。ワタシの手が届かず、阻止しきれませんでした。 

 怪盗メロディーは、やはり『虹色のダイヤモンド』を盗むのを諦める気はないようです」

「――――やはり、か」

 御簾に遮られてわからないが、声に孕まれている感情からは、とても悲しんでることが伝わってくる。

 壁にもたれている琥珀は目線を地面に向けたまま、チッと舌打ちをした。

(陽性め。一体何をしていたんだ。――――いや、水鶏が何かをしたのか)

 目線を地面から逸らし、灰色の瞳を陽性の隣で御簾を睨みつけるようにして見ている水鶏に向ける。彼女はその視線に反応して、チラリとこちらを見てきたが、頬を膨らましすぐ目を逸らした。

(ッ――。なんだよ。いつもいつも……ッ)

 水鶏は琥珀を嫌っている。なぜだかわからないが、彼女は白亜の事も嫌っているようだ。唯一彼女が心を許しているのは陽性だけで、琥珀のいう事を一度も聞いてくれた試しは無い。だから琥珀も水鶏を無視している。正直言って、彼は白亜以外のことはどうでもいいのだから。

「情報では、夜中の十二時丁度に警察庁にも届けられていたそうです。多分、阻止するのは無理だったかと」

「それも、そうじゃな……」

 陽性の感情があまりこもっていない台詞に、少女とも女性とも似つかない声が答える。

 どうやら、怪盗メロディーとはとても用意周到な者達のようだ。

 琥珀は、昨日あった四人の人物を思い出す。

 その中で、長身のメガネをかけた少年を、琥珀は頭の中に思い浮かべる。あの時の冷たい視線を――。

 その時、

「しょうがない」

 白亜がゆっくりと言葉を紡ぎだした。

 琥珀は目線を御簾に向ける。

「そなた達に、命をあたえよう!」

 そして、短い沈黙の後、白亜は再び口を開いた。

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