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シスターアンドウィッチ  作者: 竜田揚げ丸
ep1: 魔獣事件
5/7

魔法陣の意味は

 そこはどうやら大部屋なのかやたらとスペースが広く、室内に漂っているかび臭い空気とは裏腹に部屋の中は極めて明るかった。…とは言ってもその光源は照明や月明かりのように上から降り注ぐ優しい光ではなく、床に敷設された巨大な魔法陣による禍々しい赤い光であったが。


「……これまたずいぶんとデカい魔法陣ですね。これもどこかに転移する用の…。…おや」


 何かに気づいた様子のエプサは部屋の端まで近づき、そして屈む。その視線の先にあったのは。


「あのワンころに攫われた被害者たちだろうな。息はあんのか?」


 エプサは手馴れた様子で被害者たちの呼吸と脈を確認すると、彼女にしては珍しくいつもはほとんど変わらないその表情をほんの僅かに緩めて小さく安堵の息を漏らした。


「かなり衰弱しているようですが、この一角で倒れている皆は辛うじて。とはいえ、このままでは危ないですね。放っておけば命に関わってくるでしょうし、それ以前にいつ黒幕に不要認定されて命を摘まれるかわかったものじゃありませんから」


「……じゃあとっとと黒幕をぶちのめしたほうがいいのか」


 そう言って探索するためか歩き出そうとしたヴィーラだったが、しかしながらいつの間にかペンダントを握りこんでいるエプサは目を伏せて祈るように手を組んで、その場を動こうともせずに「行くなら先に行っていてください。私は後から行きますので」といつもの冷静な声でヴィーラに告げる。

 エプサのそんな態度に「なんでこいつ行く気がないんだ」とばかりに訝し気に目を細めたヴィーラだったが、しかしながらすぐに合点がいったのかヴィーラはぽんと自分の手を打った。


「魔人連中の道連れ防止のためにやるやつか、ソレ」


「えぇ、教会が開発した道連れ魔法探査専用の特殊でピンポイントな広範囲探知魔法です。…以前からやっていたかと思いますが?」


 目を伏せたままのエプサのそんな発言にヴィーラは内心「やってたっけなそんなの…?」とは思ったが、しかし口には出さずに『へっ、あたしは知ってたぜ』とでも言いたげに口の端をニヒルに吊り上げた。明らかに強がりだったが、目を伏せているエプサにはまったく届いていない。

 そんな一人相撲に恥ずかしくなったからかちょっとだけ顔を赤くしたヴィーラは、誤魔化すように「へへへ」と笑い声をあげながら視線を泳がせ、しばしどう動くか逡巡した末に魔法陣に近づきおもむろに手袋を嵌めて手を翳し、先ほどと同じく解析することを選択した。


「「…………」」


 だだっ広い部屋の中で二人が黙ったために被害者たちの少しばかり荒い息遣いのみが室内を満たして数分の時が過ぎ、やがて作業が終わった二人の視線が交錯する。

 互いに無言の中で、先に口を開いたのはエプサだ。彼女はいつもの無表情にどこか安心したような何とも言い難い表情と柔らかい雰囲気を浮かべ、心なしかテンション高めに彼女は告げた。


「とりあえずこの部屋全体に走査をかけましたが、反応はありませんでした。これで思う存分黒幕を殴れますね」


 エプサのその報告を聞いたヴィーラもまた安心したようにふっと笑みを浮かべたが、「次はあたしの番だな」と低い声で前置きすると同時に眉間にしわを寄せて嫌悪感丸出しの表情を見せた。それと同時に先ほどまで無表情に若干の喜びを浮かべていたエプサは、どうせ碌でもない検証結果が口に出されるのだろうといつもの感情が全く乗っていない真顔となる。


「あの魔法陣な。魔獣生成工場だわ」


「……魔獣生成工場?」


 ヴィーラの報告に対し、エプサもまた心底不快そうに眉間にしわを寄せた。こんな薄暗いところの床に堂々と鎮座している魔法陣などどうせ碌でもない用途のものではあるのだろうとは思ってはいたが、まさかそこまで碌でもないものとは思っていなかったのだ。

 しかしながら、そんなエプサの内心とは裏腹に嫌悪感の極みといった表情のヴィーラの碌でもない魔法陣の報告はまだまだ続く。


「あぁ。周りに倒れてる人いるだろ? あの人たちは魔法陣の動力源だな。あの人たちから魔力を吸って、そんでそれを基に魔獣を作るっつーいかにもなクソ迷惑魔法だ」


「害悪でしかないですね。とっとと魔法陣と黒幕を潰してこの人たちを解放してあげましょう」


 そう言いながらエプサが肩をぐるぐると回して気合を入れたところで、「で、そうと決めたところで一つご報告なんだけど」とヴィーラはいつの間にやら先ほどの厳しい表情を崩してなんとも言い難い表情に変わっていた彼女は血気に逸るエプサに声をかけた。

 困惑というか呆れというか仄かな怒りというか、とにかく絶妙な雰囲気を全身から醸し出すヴィーラに対してエプサは違和感を覚えつつ「なんでしょうか」と一旦冷静になって応対に入った。

 そんなエプサに対して、ヴィーラはゆっくりとある一点を指さした。


「そこに転がってるやついるでしょ? あの黒い服着てうつ伏せになってるやつ。ほら、白髪頭の」


「黒い服でうつ伏せで白髪頭…あぁ、あそこの彼ですか。彼が何か?」


「彼、黒幕です」


 ヴィーラの突然のカミングアウトにエプサは思わず「はぁ?」と素っ頓狂な声をあげて、件の白髪頭の青年を凝視した。彼は周囲の人間と同様にうつ伏せのまま態勢はまったく動かない。それでもエプサは何かの罠かと思ってしばらく凝視し、しびれを切らして三発ほど彼の近くに銃弾を撃ち込んでも呼吸以外にはピクリともしない。

 銃弾を三発も使ってなお無反応なので、エプサはゆっくりとヴィーラに視線を向ける。その瞳には「その情報は確かなんでしょうね?」という疑念が満ちており、ヴィーラはぶんぶんと顔の前で手を振りながら「いやいやこれがマジなんだって」となんだか言い訳するための助走のような言葉を口にした後、改めて調査結果をエプサに伝える。


「魔法陣は色んな魔力が混ざってたけど、骨格(フレーム)部分の魔力がどこから流れてるかを確認したら発生源はあいつだったんだ。そこはガチだ、あたしの頸を賭けてもいい」


「……じゃあなんですか? 彼は魔法陣の中核を作ったはいいけどなんらかの事情で魔力を吸い取られて自滅した、ということですか?」


「たぶんな。どこぞの魔人から身の丈に合わない術式でも貰ったんだろ。で、それを実行したら自滅したと」


「魔獣を作って悪さしようという時点で大概なのに、そのうえ自滅するなんて愚か者の極みじゃないですか」


「あたしもそう思うよ。ったく、魔法使いの端くれなら危機管理くらいしっかりしとけよな。…あぁそうそう、これ解析したそこの魔法陣の骨子魔力のサンプルな」


 そう言いながらヴィーラは複雑な文様が入った小瓶を投げ、エプサはそれを片手で受け止めた。それを見て「ナイスキャッチ」と半笑いで言ったヴィーラを軽く一瞥した後エプサは魔法の発動を避けるためか魔法陣の上を通らず迂回して白髪頭のもとへたどり着くと懐から何かの器具を取り出して白髪頭に数秒突き付け、その後ヴィーラからもらった小瓶にも突き付けるとエプサの持つ器具の先端が赤色に光り輝き、そしてエプサは視線を鋭くした。


「……赤判定(レッドゾーン)…確実に元凶ですね、確保します」


 エプサがそう言ってペンダントに手を触れると、その手は眩く輝き始めた。彼女がその輝く手で白髪頭の手首に触れると、光は彼の両手へと移ったのちに手錠のような形へとその姿を変え、彼の両手を拘束する。

 そんな一連の流れを覗き込むように見ていたヴィーラは『一仕事終わった』とでも言いたげに息を吐くと、怠そうに魔法陣に目をやり口を開く。


「あとは白髪の身柄を教会に引き渡して魔法陣を教会の…。……うん?」


 ヴィーラのあげた疑問の声にエプサがどうしたのだろうかと彼女のほうを向いてみれば、魔法陣が先ほどよりも強く妖しく輝いてその上脈動するかのように明滅しはじめ、周りに倒れている人たちは苦しそうなうめき声を上げ始めた。正確な理由は定かではないが、術者が確保されたからか魔法陣が動作してこのあとすぐに魔獣が生成されることは想像に難くない。

 状況を把握したエプサはヴィーラに対して「魔法陣に細工などは施していなかったのですか?」とばかりにじとりとした視線を向け、攻め立てるような視線を受けたヴィーラは「しくった…」とばかりに目を伏せた。


「あれだけ色んな人の魔力が混在してる魔法陣を下手にいじったら疑似人格を使ったところで人格崩壊廃人まっしぐらだし、魔法を発動するハズの黒幕は使い物にならんからあたしが放っておいても問題ないかなぁと思ってたんだけど…やっぱダメだったか…」


「……解析したときに気づかなかったのですか?」


「ごっさ巧妙に隠されてやがったのか全く気づかなかった…。クッソ、死ぬほど丁寧に見ればこうなる前にわかったのか…? もしこんな醜態がお師さんの耳に入ったらと考えると…うーわ、考えたくねぇなぁ…」


「なるほど、ではお師匠さんにしっかり絞られるようにお祈りしておきますね。…とはいえ貴方に任せて油断したのは私ですし、たぶん上から怒られるのでしょうね。…あぁ、最初から私が処理しておけばよかった」


 エプサとヴィーラがそんなやりとりをしている間にも魔法陣の胎動はどんどんと激しくなり、それと同時に魔法陣には魔力が集まって何かの形を成そうとしていた。

 だがエプサもヴィーラもそれをただ見ているのではない。エプサはいつの間にか外していたペンダントを右手に巻き付けるとそれの宝石部分を魔法陣に見せつけるかのように手を開いて伸ばし、凛とした表情で大きく空気を吸い込むと。


「──対魔聖者(アタッカ・クレリッカ)、シスター・エプサがその名において主と主に祈りし五の聖女に希う! 清廉たる者たちの安寧のため暫しの時の間においてその聖なる力を振るい、異形なるものの顕現を遅らせるとともにこの祈りを救済のための導とし給え──!」


 エプサが珍しく大きな声でそう唱えるとペンダントの石から神聖さを感じ取れる光が飛び出し、杭のように形を変えて魔法陣めがけて勢いよく突き刺さって眩く輝いた。その輝きとともに魔法陣の禍々しい光は確実に弱くなって明滅のペースも遅くなり、魔法陣に集まる魔力も先ほどよりもずっと集まる量が少なくなっている。

 そういった風に魔法陣の働きが阻害されていることを確認したヴィーラは即座に足元に魔法陣を展開し、自らの足元の魔法陣を強く踏みつけた。


「──ウェーブスネーク・ソニック・キャリアー!」


 ヴィーラがそう叫んだまさしくその瞬間に足元の魔法陣は幻想的な蒼色に輝き、その中から魔法陣と同じ光が飛び出すと共に何かが部屋中を駆け巡った。だがそれはわずかに湿った風を残してすぐに消え去り、その時には倒れていた人たちの姿が既に消えて部屋にはエプサとヴィーラだけが残されていた。


「……とりあえずあの白髪含めて全員ここから逃がした。っつーわけで、もういいぞ!」


 ヴィーラがそう叫ぶと、エプサは魔法陣を睨みつけるかのように鋭く見据えると。


「……主と主に祈りし五の聖女よ、お力添え心より感謝いたします。これより、あなた方の思し召し通り──魔なる者を、ぶちのめします──!」


 その言葉と同時にエプサは開いていた右手を強く握りしめると同時に、魔法陣に突き刺さっていた杭のような光は細かな粒子となって消えていく。

 光の拘束を失った魔法陣は再び強い輝きを取り戻したかと思えばすぐに魔力の奔流が魔法陣に集まり、やがて見知った姿──三つ首の獣の姿へと編み上げられていった。

 あまりにも醜悪で禍々しく咆哮をあげるそれに、しかし二人は動じもしなければ怯みもしない。二人は魔法陣から現れたそれをただ見据えて。


「っし! いつも通りぶちのめすか!」


「えぇ。誰にケンカを売ったのか、その身にわからせてあげましょう…!」


 肌を焼く殺気を振りまきながら突撃してくる魔獣を、二人は市街地での戦闘よろしくローリングソバットで思い切り蹴り飛ばして壁に叩きつけめりこませたのだった。

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