王命と木槌
――その朝、工房に“王家の封蝋”が届いた。
職人たちは作業の手を止め、息を呑む。
このところ仕事が減り、工房には不安が漂っていた。
深紅の封蝋には、堂々と刻まれた王家の双翼の紋章。
それだけで膝が震える。
「こ、これ……本物だぞ」
震える声で親方が封を切る。
開かれた文には、金のインクでこう記されていた。
『建国記念祭において、魔導車〈カール〉が牽引する山車を制作せよ。
王国女王 レティシア・アストラール三十四世』
読み終えた瞬間、工房内は静寂に包まれた。
若い職人が思わず呟く。
「な、何でうちなんだ……?」
返事は、老親方の太い声だった。
「決まってる。
腕を信じていただいたからだ!」
その一言で、全員の背筋が伸びる。
王都に名だたる木工師は数多い。
だが、この依頼が来たのは自分たちだ。
つまり――
“この技を絶やすな”という国からの願いでもある。
親方は設計図を受け取り、唸った。
「……魔導車と連結だと?
こりゃ、ただの山車じゃねぇぞ。
王国の未来を牽く“象徴”だ」
職人たちは即座に動き出す。
誰一人、指示を待とうとしない。
「木材、最高級の“星樹”を!」
「継ぎ目は全部、精霊銀の留め金で!」
「彫りは全部手彫りだ!妥協すんなよ!!」
手にタコのある腕が振るわれ、
鑿の音が工房に響き渡る。
建国記念祭まで――あと30日。
昼も夜もない。
睡眠も惜しい。
「死んでも間に合わせるぞ!!」
若者が叫ぶ。
仲間たちが笑いながら、同じ言葉で返す。
「死ぬなよ!!」
汗が床に落ち、木屑が舞う。
それでも腕は止まらない。
魂を削る匠たちの祈りが――
王国の未来を形にしていく。




