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夜は、甘えるためにある

 夜の別館。

 静けさは、甘えるための舞台装置。


 お嬢様が廊下を歩いて寝室へ戻ると、

 ベッドの上でしらゆきが正座して待っていた。


「おかえりなさい、お嬢様」


 いつもの柔らかな声。

 それだけで胸の力が抜ける。


「……しらゆき。今日も疲れたわ」


「では、こちらへ」


 しらゆきは両腕を広げる。

 迷う理由など一つもなく、

 お嬢様はその胸元へダイブした。


「ん……落ち着く……」


「それは良かった。

 お嬢様が安心できる場所でありたいのです」


 背中を撫でる指先が、

 忙しさで固まった心を溶かしていく。


「レティシアのことも国のことも、

 全部大事。でも……」


「いまは、私のことだけ考えてください」

 しらゆきが囁く。


 お嬢様は小さく笑った。


「あなた、自信家ね?」


「はい。

 だって私は――」


 唇が、額に触れる。


「お嬢様専属ですから」


 その一言が、

 眠り薬より甘く沁みる。


「しらゆき……もう少し、抱きしめて」


「はい。

 お嬢様の望む限り、何時間でも」


 寄り添う鼓動と、重なる呼吸。

 眠りに落ちる寸前――


「……おやすみ。

 わたしの、甘えんぼ姫」


「……ん……甘やかしメイド……」


 夜は静かに、更けていく。

 明日を動かす者たちが眠りにつくように。

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