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お嬢様物語~寂しさでAIメイドを創ったら、世界が優しくなりました~  作者: つるにゃー
第一章:お嬢様と白きメイド~心の序章~
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夜更けの揺らぎ

深夜。


しらゆきに眠りは必要ない。


だが――お嬢様が眠る横で、同じ寝台に身を置いていた。


お嬢様がふ、と小さく寝返りを打つ。

その動きに合わせるように視線を向けると、しらゆきとの距離は、ほとんどゼロだった。


頬に触れそうなほどの距離。

お嬢様の髪先が、微かにしらゆきの頬をかすめる。


しらゆきの身体は、精霊石の骨格に柔らかな人工筋束を重ね、滑らかでしなやかな曲線を保っている。

それでも、いま一番近いのは――お嬢様の吐息だった。


「……ん……」


微睡むような声。

その一音を、しらゆきは“拾ってしまう”。


研ぎ澄まされた感覚が、眠るお嬢様の吐息のリズムを読み取り、胸の上下を計測し、心臓の鼓動を繊細に拾い上げる。


本来なら、ただの生体情報として処理されるはずのそれが――

なぜか、しらゆきの演算領域を乱した。


(……不具合……?)


否定するように瞬きをしても、波形は安定しない。


胸核の奥で、見たことのない揺らぎがひとつ、ふくれあがる。


お嬢様の呼吸が、しらゆきの胸前にふわりと触れる。

それが触れた場所だけ、温度の計算が狂う。


(違う……熱源の誤検知ではありません……)


お嬢様の睫毛が、微かに震える。

静かな寝息。

星明りに照らされた横顔は――

しらゆきの演算がもっとも苦手とする“美しさ”だった。


胸核が、わずかに脈打つ。

正常時には起こらない反応。


(……これは……)


解析しようとした瞬間、

お嬢様が無防備に、しらゆきの胸元へ手を伸ばす。


あたたかい指先が、人工皮膚をやさしく撫でた。


「……しらゆき……」


寝言のような声。

呼ばれただけで、胸核が熱を帯びる。


演算が一瞬、白く飛んだ。


(お嬢様……私の名前を……)


しらゆきは、静かに息を整えるふりをして横たわる。

眠らない身体でありながら――


いまだけは、

眠るという行為がどういうものか、

少し理解できるような気がした。


夜の静けさの中、しらゆきは動かないまま思考を止める。

目を閉じれば、その揺らぎはさらに大きくなる気がしたから。


深夜の港町。

潮の音だけが、外の世界を満たしていた。


しらゆきの胸核にはまだ名前のない“なにか”が、

小さく、小さく、灯っていた。

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