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劣化版設計図で世界は走る

 重厚な扉が開き、

 魔術師ギルド長が深く頭を下げた。


「本日はお時間を頂き、誠に恐れ入ります」


 お嬢様はソファに優雅に腰掛け、

 すぐ隣でしらゆきがぴたりと密着して控えている。


(……近い。近すぎるわよ、しらゆき)

 そんな言葉をぐっと飲み込む。


 誰もいないはずの背後――

 室内の影がわずかに揺れた。


(夜姫もいるわね)

 お嬢様は気づきながらも顔色一つ変えない。


「それで――ご用件は?」


 ギルド長は決意を込めて顔を上げた。


「キールの技術を……

 我々にも共有いただけないでしょうか」


「嫌よ」


 即答だった。


 ギルド長が息を呑む中、

 お嬢様は退屈そうに続ける。


「それに……あなたたちには無理」


 鋭すぎる一言。

 指先がびくりと震えた。


「無理は承知しております。

 ただ――人を運べる魔導車さえあれば、それだけで……」


 焦りと誇りが入り混じった声。


 お嬢様の唇が上品に歪む。


「……いいわ。3日頂戴」


 ギルド長が驚愕する。


「あなたたちでも組める

 劣化版の設計図を渡す」


「ほ、本当に……!」


「でも、もちろん」


 妖艶な笑み。


「特許は全部――私が取るけど?」


 ギルド長は即座に深く頭を垂れた。


「もちろんでございます!

 お嬢様のご決断、未来に繋がる栄誉にございます!」


 それは屈服ではなく、

 救いへの感謝の震えだった。


 しらゆきが密着したまま涼やかに囁く。


「ご退出はセバスがご案内します。

 ……お気をつけて」


 扉が閉まる。


 影が揺れ、夜姫が姿を現す。


「お嬢様の成功を狙い、ようやく……ですね」


「まあ、魔術師たちにも出番を与えないと。

 王国は総力戦で遊ばなきゃ、面白くないもの」


 お嬢様は貴族的な微笑みを浮かべた。


「なにより王国は――

 私が創った“家族”が暮らす場所なのよ」


 しらゆきの瞳が柔らかくなり、

 夜姫は静かにその言葉を胸に刻んだ。

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