転移不能/地上突破
昼下がりの館。
お嬢様は執務室で書類の確認をしていた。
その静寂を破るように――
館中に警報が鳴り響く。
《緊急通達:ルーベリア工業区にて爆発火災発生!》
《魔力濃度、危険値に到達。転移座標の固定に失敗》
「転移障害……?」
しらゆきが眉をひそめる。
空間そのものが歪み、転移が弾かれてしまうのだ。
「現地に行きます」
お嬢様の決断は迷いがなかった。
「キール!」
呼ばれて一秒も経たぬうちに、
深い蒼黒のAI自律自動車――キールが滑り込んでくる。
車体には淡く輝く
**雷精霊の文様**が波打ち、
魔力が循環するリズムが視覚的に伝わってきた。
「マスター、お嬢様。救助任務、受諾済み」
落ち着いた男性的な声が響く。
「飛べる?」夜姫が短く問う。
「完全飛行は不可。しかし――
短距離浮上と障害物の立体回避は可能です」
「十分よ。行くわ」
お嬢様が後席に乗り込む。
「私も同行いたします」
しらゆきもすぐ続き、
「護衛は任せろ」
夜姫が助手席へ滑り込む。
「目的地、ルーベリア工業区――最短ルートで走行します」
キールの声は低く、鋭い。
魔導タービンが安定起動し、
昼の道路に青白い風が走る。
「お嬢様、現場では防護結界をお願いします。
魔力流が乱れ、人体への逆流が発生しています」
しらゆきが警告する。
「わかってるわ。現地で止める」
お嬢様は前方を見据えた。
窓の外、
陽光の中で巨大な黒煙が噴き上がっている。
その黒は、まるで空を喰らう怪物のようだった。
だが、黒煙の向こうで、誰かがまだ生きている。
夜姫が拳を握りしめる。
「まだ……間に合う」
「間に合わせるわ」
お嬢様が静かに、しかし絶対的に言い切った。
キールは舗道の段差を無視して浮上し、
魔力の風吹くような加速で工業地帯へ突入する。
救うために。
守るために。
遅れないために――




