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ただのレティシア

 王宮庭園。

 夕暮れの金が葉を透かし、薔薇がそよぐ。


 白いテーブルクロスの上に、上品な木箱が置かれる。

 お嬢様がふわりと微笑む。


「館のシェフに頼んだの。

 季節の果実を使った生菓子よ。あなたに届けたくて。」


「……お嬢様の館製!? 本当に……ありがとうございます!」


 レティシアの顔にぱっと年相応の輝きが宿る。

 ひとくち頬張れば、ほどける甘さに目を細めた。


「……おいしい……。

 甘さが、ちゃんと優しいです……」


 その表情には、王の威厳も剣士の剛も要らない。

 ただの16歳の女の子。


 お嬢様は紅茶を注ぎながら目を細める。


「あなたが喜んでくれるなら、シェフも張り切った甲斐があるわ」


 レティシアは少し肩を落とす。


「最近はもう……どこへ行っても“剣”の話ばかりで」


「“女王陛下は剣の天才だ”

 “うちの子も剣士にしてみせる”……」


 お嬢様も苦笑し、視線を合わせる。


「ええ。あなたが強いのは誇らしい。

 でも、流行の剣士が増えて社会が振り回されても困るわ」


「本当にそれです……!」


 二人は揃って深く溜息。


 レティシアはカップをそっと置き、少しだけ素直な声になる。


「剣を持つ気構えは、剣を振るう目的と一緒に育ってほしい。

 私は……そう思い始めています」


 お嬢様は穏やかに微笑む。


「よくわかっているじゃない。

 力は誇示ではなく、守るためにあるのだと」


 風が薔薇を揺らし、甘い香りが漂う。


「王様だって、疲れていいのよ」

お嬢様が優しく告げる。


「少なくとも、私の前では。」


 レティシアがもうひとつの生菓子を口に運ぶ。

 その頬にクリームが少し――。


 お嬢様が指でそっと拭い取り、

 茶目っ気を含んだ笑みを浮かべる。


 レティシアの耳まで、ほんのり赤く染まった。


「……今日は、ただのレティシアでいさせてください」


「もちろん。

 そのために来たのだから。」


 日が落ち、庭に灯るランタンの光。

 王でも英雄でもない、

 少女とその成長を見守る者だけがいた。

※補足

本作の世界ではまだ「生菓子(冷蔵が必要な菓子)」は一般販売されていません。

魔導冷蔵技術が王宮と一部の上流貴族にしか普及していないため、

生菓子は“家庭で作る贅沢品”として扱われています。

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