ひと振りで変わる世界
即位から数日。
レティシアが視察先で近衛の訓練を見学していた日のこと。
若き女王は一振りの木剣を手に取った。
軍司令官が試しに差し出した、分厚い藁束の標的――
腕の立つ兵士でも数打ち叩かなければ崩れないそれを、
若き女王は、一振りの木剣を手に取る。
足運びは完璧。
重心はどこにも傾かず――
木剣が一閃。
その軌跡は、美しかった。
――ザンッ。
分厚い藁束が、音を立てて真っ二つ。
周囲の空気が、一瞬止まる。
「……え?」
「……は?」
騎士たちの喉が揃って鳴った。
レティシアは「魔女の所で修業を受けたので当然」と涼しい顔。
噂は瞬く間に王都を駆け抜け、
数時間で酒場にも市場にも届いた。
「女王陛下、木剣で藁を切ったらしいぞ」
「本物の“天才剣士”の再来だ!」
「まだ16歳だろ!? 伸び代どうなってんだよ!」
やがて――
「娘を近衛騎士に!」
「うちの坊主にも剣を習わせるべきだ!」
親世代がざわつき始める。
剣術道場には新入門希望者が殺到。
商人たちは剣の在庫を買い占め、
鍛冶屋は夜まで炉を叩き続ける。
王都は空前の…
剣士ブーム
に突入した。
――――――――――
レティシア自身は、まだ自分に何が起きているのか
よく分かっていない。
ただ一つ――
王である責務と、少女である自分の境界が
またひとつ遠ざかったことだけは、
彼女の胸に、少しだけ重くのしかかっていた。




