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王の夜、少女の時間

 即位式。

 パレード。

 晩餐会。


 王都が一日中沸き立ち、

 その中心にレティシアはいた。


 笑い、手を振り、言葉を紡ぎ――

 王として完璧に振る舞った。


 そして夜。


 王宮の一室、レティシア親衛隊の詰所。

 彼女は椅子に深く座り込み、

 初めて大きく息を吐いた。


「はぁぁぁぁ……

 もうダメです。笑顔の筋肉が限界です」


 鎧姿の護衛たちは慌てて姿勢を正す。


「レ、レティシア様!?

 ご無理をなさらず!」


「王の前で気を抜くなど――」


「王じゃありません!

 いまは休憩中の16歳の女の子です!!」


 強い語気に、親衛隊が固まる。


 レティシアは机に顔を伏せた。


「ずっと笑って、ずっと手を振って、

 お祝いの言葉も、感謝の言葉も……

 最後の方は、もう頭に入ってません」


「……」


「それに、料理が豪華すぎて……

 お腹壊しそうです……助けて」


 親衛隊たちは顔を見合わせ――

 ぽつりと微笑んだ。


「大変でしたね、陛下」


「今日は……本当によく頑張られました」


「つらい時は、私たちが支えます。

 いまは……少し休んでください」


 レティシアの肩が震える。


 だが涙は落とさない。


「……泣きません。

 でも、文句くらいは言わせてください」


「もちろんです」


「陛下の文句なら、

 いくらでもお聞きします」


「聞くだけじゃなく、

 しっかり記録しておきます!」


「君たち!?」

 思わずツッコミが漏れた。


 その瞬間、詰所に柔らかな笑いが生まれる。



(父上……)

(私、ちゃんとできていますか?)


 不安は尽きない。


 だけど――

 支えてくれる人たちがいる。


 そう思えるだけで、

 レティシアは少しだけ強くなれた。



「……少し眠ります」

「はい、陛下」


「起きたら……

 また王の顔、できますから」


 毛布をかけられ、

 レティシアは静かに目を閉じた。


――少女は王となり、

その夜は、わずかに幼さを許した。

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