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少女が王となる前に

 王冠が置かれた机の前で、レティシアは一人、立ち尽くしていた。

 その冠は小ぶりで、若き王女に合わせたものだ。

 しかし、重さは変わらない。

 王の責務は、年齢すら待ってはくれない。


 扉の外では、儀礼担当官たちが慌ただしく行き交う気配がする。


「……父上」


 口にした瞬間、喉が熱くなった。

 泣きたい。

 けれど、泣くことすら許されていない気がした。

 国葬で誓ったばかりだ。

 “王の娘は泣かない”と。


 それでも、足が震える。


「無理に立とうとしなくていいわ」


 壁にもたれる影。

 いつの間にそこにいたのか。


 黒の喪服を纏い、月のような静けさを宿して――

 魔女が佇んでいた。


「……お嬢様。」


「王は死んだ。

 あなたは明日、生まれ変わる。

 これは喪と誕生が交わる夜」


 お嬢様はゆっくり歩み寄り、

 レティシアの肩にそっと手を置いた。


「震えてもいい。

 怖くてもいい。

 でも――歩みを止めてはだめよ」


 レティシアは唇を噛む。

 温かい手が肩を支えてくれる。

 ひとりではない、と。

 そう言ってくれているようで。


「私は……王になれるのでしょうか」


「なるのよ。

 明日、あなたが立つだけで、国は前に進む」


 お嬢様はかすかに微笑んだ。


「あなたは泣かない。

 だけど、泣きたい時は――

 私の前だけで、泣けばいい。」


 言葉が胸を突き、レティシアは息を呑む。

 一秒だけ、目を閉じる。

 その一秒が、幼さとの決別だった。


「……はい。お嬢様。」


「いい子」


 お嬢様は手を離し、振り返る。


「さあ、行きましょう。

 王宮はあなたを待っている」


 扉が開かれ、光が差し込む――。


 ◇そして夜は明ける。

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