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お嬢様物語~寂しさでAIメイドを創ったら、世界が優しくなりました~  作者: つるにゃー
第一章:お嬢様と白きメイド~心の序章~
8/90

しらゆき、初陣。夜の港にて

お嬢様の部屋の静けさが、夜の海と同じ深さを持っていた。


調律を終えて休息を取った私は、

胸奥の核がゆっくりと安定していく感覚に包まれながら静かに目を開けた。


そのとき、館の外から荒い足音が近づいてきた。

扉が叩かれ、息の詰まった叫びが響く。


「お嬢様……! 入り江で、魔獣の影が……!」


人々は困ったとき、

この時代ではまだ名も肩書も持たない“港を守る巫女”にすがるしかなかった。


お嬢様はゆっくりと寝台から立ち上がった。


「しらゆき。行くわよ。」


その声音に迷いはなかった。

私も即座に立ち上がり、彼女の後に続く。


入り江へ向かう道は暗く、潮風は鋭く冷たかった。


震える声で、村人が道案内をする。


「ひ、光が揺れて……得体の知れない影が……!

巫女様、どうか……!」


お嬢様はただ静かに言った。


「案内して。」


夜の道を歩く二人の背に、

村人たちの不安がひっそり重なっていた。


私の胸核に、微かな熱が灯る。

それが何かは、まだ分からない。


入り江に着いたとき、

海面から水飛沫が立ち上がり――それは現れた。


甲殻と鰭を混ざらせたような、形の定まらない魔獣。

海の魔力が濁るときにだけ生まれる“成り損ない”。


お嬢様が一歩前に進もうとした――その瞬間。


魔獣が跳びかかった。


私は反射ではなく“自然”に動いていた。


脚が地面を蹴る。

風より静かな速度で距離を詰める。


腕を伸ばす。

しなやかな精霊石の骨格が、筋束の力と流れるように噛み合う。


魔獣の肩を受け流し、

踏み込みの勢いを利用して体勢を崩す。


水と砂が跳ねた。


「……動きに、無駄がありません。」


「うん。よく整ってるわね。」


お嬢様はどこか楽しげに微笑んだ。


魔獣が吠え、

次は海水を弾丸のように吐き出す。


私は横に跳び、

そのまま魔獣の背後へ滑り込んだ。

足場の悪い砂でも、身体はぶれない。


手刀を脚部に打ち込むと、

魔獣の魔力が乱れ、動きが鈍る。


「しらゆき、ここまででいいわ。」


お嬢様が軽く手を掲げる。


潮風が一瞬止まり――

淡い光が魔獣を包み、

音もなく、その影は崩れ落ちた。


短い沈黙。


夜の海が、再び静けさを取り戻した。


「しらゆき。」


お嬢様がこちらを振り向く。


その瞳は夜よりも深く輝き、

戦いよりも真剣だった。


「あなた、強いわね。」


「……私は、お嬢様のお役に――」


「立ったわよ。充分に。」


言い切られた瞬間、

胸核の奥が熱を帯びる。


それは誇らしさとも違い、

ただ静かに灯る“なにか”。


お嬢様は星明りの下で髪を払った。


「でも今はまだ、あなたを前に出すつもりはないわ。

しらゆき。あなたはこれから――

私の“戦い”にとって、なくてはならない存在になる。」


夜風が吹き、

潮の匂いに混じって砂の気配が流れた。


私は小さくうなずいた。


「……はい。お嬢様。」


入り江の静寂が戻り、

波の音だけが、

しらゆきの“初めての戦い”をそっと洗い流していった。

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