未来を運ぶもの
開通式の夜。
王宮は祝宴の灯りと、静かな高揚に包まれていた。
食卓には、港町から運ばれたばかりの鮮魚が並ぶ。
透き通るような刺身が、氷の上できらめく。
「生の魚を、こうして味わえる時代が来るとはな……」
国王は目を細め、ゆっくり箸を取った。
料理長は胸を張る。
「魔導冷蔵線のおかげでございます。
鮮度は保証いたします、陛下」
王妃がほほ笑む。
王女レティシアは嬉しそうに頬を染める。
「陛下。これはあなたが切り開いた未来ですよ」
お嬢様が静かに声をかけると、
国王は照れたように肩をすくめた。
「私は……道を示しただけだ。
歩むのは、次の時代だよ」
レティシアは言葉を受け止め、真っすぐ父を見つめる。
「お父さま。
わたし、必ずこの国を強くします」
国王は、深く、深く頷いた。
嬉しそうに、どこまでも穏やかに。
――それが最後の晩餐となった。
◆
翌朝。
朝日が王宮の窓を照らす頃。
「……陛下が……」
侍医の震える声が、静寂に吸い込まれた。
国王は眠るように逝っていた。
苦しみの跡はなく、安らかな顔のまま。
お嬢様はそっと瞼を閉じる。
「……約束を果たしたのね。
未来を、ちゃんと見届けて」
レティシアは涙をこらえて立ち上がり、
拳を強く握る。
「ありがとう……お父さま。
ここからは――私が」
◆
その日、王宮の旗は半旗となり、
人々は胸に手を当て祈りを捧げた。
歴史書はこう記す。
『第三十三代国王、ここに眠る。
魔導新幹線の父として――
王国に未来を遺した者』
この日を境に、風が吹き変わった。
少女は王へと踏み出し、
国は新しい時代へ走り始めたのだった。




