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小話~セバスの1日ちょっと特別な日~
セバスは飲食を必要としない。
人工精霊として造られた彼には、味覚も本来ない。
――はずだった。
「セバス!」
呼ばれれば、どれほど離れていようと即座に転移する。
跪き、恭しく頭を下げる。
「はい、お嬢様。ご用件を」
「珍しい白酒が手に入ったの。
あなたの分も一本、多めに買ってきたわ。……飲みなさい」
差し出された瓶。
透き通る白に、微かに揺れる香り。
「お嬢様……っ。ありがたき幸せ……!」
栓を抜き、一口。
――ふわり。
(……優しい)
無かったはずの味覚が、淡く灯る。
刺す辛さではなく、胸の奥を撫でていく温度。
それは、
かつて自分が与えるだけだった“愛”の温度。
「本当に……特別なお酒でございます」
胸核が震え、
感情で酔う。
自分という存在を
世界に肯定する声が、確かにそこにある。
セバスは瓶を見つめ、
静かに微笑む。
(これが……お嬢様の味)
白酒は、彼にとって
**“愛を知った証”**だった。
今日も、ただひとりの主のために。
その甘い余韻を胸に、彼は立ち上がる。
――世界で一番誇り高い執事として。
白酒=日本酒




