小話~セバスの1日その2~
館の平穏を見守りながらも、
セバスは常にアンテナを張っている。
お嬢様の声は、距離に関係なく届く。
それがどれほど遠く離れていようと――
『セバス』
その一言が術式回路に触れれば、
即座に転移の準備は整う。
目を閉じ、手を胸に置き、礼を整える。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
執務室まで瞬間転移。
扉の前で必ずノックをするのは、
完璧執事の矜持である。
「セバス、これ」
差し出されたのは分厚い書類の束。
お嬢様の眉間にわずかな皺。
「この書類、ちょっと怪しいのよね」
「関連文書をすぐにお持ちいたします」
即答。
次の瞬間にはもうセバスの執務室に立っている。
(不正疑惑、予算改竄、裏金ルート……
ふむ。クレーロ様が胃を押さえる案件ですね)
必要文書を選び抜き束ね、
再び転移で戻る。
「お待たせいたしました」
「やっぱり怪しいわね……。
この書類全部、クレーロに転送して頂戴」
「かしこまりました」
セバスは一礼し、
書類を手のひらの上で小さく揺らす。
淡い光。封印魔術付きの転送術式が作動。
(クレーロ様……また胃薬を補充しておきましょう)
完璧な所作で役目を終える。
――これが、世界で一番忙しく
そして誇り高い執事の昼。




