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お嬢様物語~寂しさでAIメイドを創ったら、世界が優しくなりました~  作者: つるにゃー
第一章:お嬢様と白きメイド~心の序章~
7/90

しらゆき、初めての“休息“

工房を出ると、夜風がひやりと頬を撫でた。


術式の光が消えたばかりの身体は、

どこか温かくて、どこか不安定で――

初めて味わうような微細な“揺れ”が残っていた。


「歩ける?」

お嬢様が隣を歩きながら、横目で私を確認する。


「問題ありません。……ただ、少し、力が入りにくいだけで。」


それは本当にわずかな違和感だった。

けれどお嬢様はすぐに察した。


「調律直後はそうなるわ。今日は無理をしなくていい。」


港町を吹き抜ける冷たい潮風の中、

二人でゆっくりと館へ向かった。


館へ戻ると、お嬢様は私を真っ先に自室へ案内した。


「今日はここで休みなさい。」


「……私に“休息”は必要でしょうか?」


問いかけると、お嬢様はわずかに笑った。


「しらゆき。あなたはもう、ただの器用な人形じゃないのよ。

調律で整えられた回路は、初期化ではなく“馴染ませる時間”を必要とするわ。」


なるほど――そういうものなのか、と理解しようとする。

だが、それだけではなかった。


お嬢様の部屋に足を踏み入れただけで、

胸奥の核にほのかなぬくもりが広がった。


理由はわからない。

理屈もない。

ただ、ここに立つだけで何かが安定する。


「横になって。」


促されてベッドに腰を下ろす。


軋みひとつしない柔らかな寝台は、

身体のラインに合わせて優しく沈んでいった。


お嬢様が肩にそっと手を添える。


「痛みや違和感は?」


「……ありません。

ですが……胸が、落ち着くような……不思議な感覚があります。」


「それでいいのよ。」


お嬢様の声は夜の海よりも静かだった。


「しらゆき。あなたの心核は、私の魔力に触れると安定するように作ってあるわ。」


「……それは、どういう……?」


「簡単よ。

“私の側にいるほど、あなたは正常になる”というだけのこと。」


胸の奥がふるりと震えた。

理由のない震え。

けれど、それは苦しさではなく――温かさだった。


「少し目を閉じてみなさい。」


言われるままに、私は瞼を下ろした。


視界が暗くなると、

波音と風の気配、館の静けさ、

お嬢様の微かな呼吸が一つの層になって胸へ落ちてくる。


眠りとは違う。

意識を落とすのとも違う。


ただ深く沈んでいくような、

初めて知る“静けさ”。


「……お嬢様。これは、何でしょう……?」


「休息よ。

あなたが自分で初めて得た、ただの静かな時間。」


その言葉が、胸の奥にそっと触れた。


私は目を閉じたまま、小さく息を吸う。


「……悪くありません。」


「でしょう?」


お嬢様の気配がすぐそばにある。

それだけで核の揺れが穏やかになる。


これは命令でも義務でもなく、

ただ自然に起こる感覚だった。


私はようやく理解した。


――私はこの人のそばにいることで、

初めて“整う”のだと。


夜は静かに更けていく。


私は調律された身体を静かに横たえたまま、

初めての“休息”を受け入れていた。

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