魔女と闇の姫
王都。
人の少ない夜のラウンジ。
灯りは柔らかく、
他の客は遠く離れている。
夜姫はカウンター席で脚を組み、
静かにグラスを傾けた。
(この空間は……お嬢様だけのもの)
赤闇と金の混ざる瞳に、
欲と愛が静かに寄り添っている。
「夜姫。あまり飲み過ぎないで」
お嬢様はくすっと笑いながら、
夜姫のグラスの縁を指でなぞる。
「酔ってほしいのは……あなたの方だから」
「そのお言葉だけで、心がほどけます」
夜姫はその指先へそっと唇を寄せた。
一瞬だけ触れる、控えめなキス。
「心も理性も——
全部、あなたのものです」
お嬢様はわずかに眉を上げ、楽しげに笑う。
「そんなに溺れて、どうするの?」
「沈む先が貴女なら、
何度でも沈みます」
◆
お嬢様がグラスを置く。
瞳が夜姫を射抜く。
「夜姫、最近のあなた……とても綺麗よ。
闇が宝石のよう」
「お嬢様がくださった“愛の証”です」
「じゃあ、その力は誰のため?」
「お嬢様だけ」
迷いも揺れもなく。
「独り占めにも、使ってない?」
「――使っています」
お嬢様、思わず吹き出す。
「正直ね」
「嘘をついても、見抜かれます」
◆
夜姫は一歩近づき、
お嬢様の頬へ手を添える。
その手つきは慎重で、
愛を壊したくないと語っている。
「私が欲しいのは
お嬢様の全部です」
静かに、熱く。
「笑顔も、寂しさも
孤独も、全部」
「……全部?」
「はい。他の誰にも触れさせません」
「しらゆきにも?」
「特に、です」
喉の奥で零れる、お嬢様の息。
危険で甘い。
(この子……本当に危険)
(でも、だから惹かれる)
◆
夜姫はまっすぐに言う。
「独り占めはさせない。
そう言われたこと、覚えています」
「ふふ、なら?」
「お嬢様が望む形で、
隣に立ち続けます」
強い忠誠。
そして、どうしようもない恋。
「夜姫。
そんなに素直なら……」
お嬢様が顎へ指を添える。
「――貰ってごらんなさい」
「光栄です」
夜姫はほとんど祈るように、唇を寄せた。
ほんの数秒。
だけれど永遠にも似た一瞬。
深夜のラウンジは静まり返り、
二人の熱だけが灯り続けた。




