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魔女と闇の姫

 王都。

 人の少ない夜のラウンジ。


 灯りは柔らかく、

 他の客は遠く離れている。


 夜姫はカウンター席で脚を組み、

 静かにグラスを傾けた。


(この空間は……お嬢様だけのもの)


 赤闇と金の混ざる瞳に、

 欲と愛が静かに寄り添っている。


「夜姫。あまり飲み過ぎないで」


 お嬢様はくすっと笑いながら、

 夜姫のグラスの縁を指でなぞる。


「酔ってほしいのは……あなたの方だから」


「そのお言葉だけで、心がほどけます」


 夜姫はその指先へそっと唇を寄せた。

 一瞬だけ触れる、控えめなキス。


「心も理性も——

 全部、あなたのものです」


 お嬢様はわずかに眉を上げ、楽しげに笑う。


「そんなに溺れて、どうするの?」


「沈む先が貴女なら、

 何度でも沈みます」



 お嬢様がグラスを置く。

 瞳が夜姫を射抜く。


「夜姫、最近のあなた……とても綺麗よ。

 闇が宝石のよう」


「お嬢様がくださった“愛の証”です」


「じゃあ、その力は誰のため?」


「お嬢様だけ」


 迷いも揺れもなく。


「独り占めにも、使ってない?」


「――使っています」


 お嬢様、思わず吹き出す。


「正直ね」


「嘘をついても、見抜かれます」



 夜姫は一歩近づき、

 お嬢様の頬へ手を添える。


 その手つきは慎重で、

 愛を壊したくないと語っている。


「私が欲しいのは

 お嬢様の全部です」


 静かに、熱く。


「笑顔も、寂しさも

 孤独も、全部」


「……全部?」


「はい。他の誰にも触れさせません」


「しらゆきにも?」


「特に、です」


 喉の奥で零れる、お嬢様の息。

 危険で甘い。


(この子……本当に危険)

(でも、だから惹かれる)



 夜姫はまっすぐに言う。


「独り占めはさせない。

 そう言われたこと、覚えています」


「ふふ、なら?」


「お嬢様が望む形で、

 隣に立ち続けます」


 強い忠誠。

 そして、どうしようもない恋。


「夜姫。

 そんなに素直なら……」


 お嬢様が顎へ指を添える。


「――貰ってごらんなさい」


「光栄です」


 夜姫はほとんど祈るように、唇を寄せた。


 ほんの数秒。

 だけれど永遠にも似た一瞬。


 深夜のラウンジは静まり返り、

 二人の熱だけが灯り続けた。

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