隣に立つ資格~2~
「ちょっと待ちなさい」
お嬢様の声が、ぴたりと空気を止めた。
夜姫は肩で息をしながら、
床に落ちた木剣を見つめていた。
しらゆきも身構えを解かず、鋭い視線を向けている。
お嬢様はゆっくりと夜姫のもとへ歩み寄る。
赤闇が燃え上がり、
夜姫の瞳は金を飲み込むような赤に染まっていた。
しかし――
「夜姫」
お嬢様がそっと抱きしめる。
「……っ」
夜姫の身体が、一瞬で硬直した。
お嬢様は耳元へ唇を寄せる。
「奪うだけの愛は、愛ではなく呪縛よ」
「でもその闇は、間違いなく“私を想う気持ち”」
その囁きは優しく、
背筋が痺れるほど真っ直ぐだった。
「私は二人を愛するわ。
永遠に――等しく」
その言葉が、赤闇を貫いた。
夜姫の身体がびくんと震える。
赤い瞳に、
かつての金色が、ゆっくりと戻り始める。
闇が愛に馴染んでいく。
「お嬢様……」
夜姫は息を震わせ、
顎をお嬢様の肩に預ける。
「……愛しております」
その声は、戦場で叫ぶものではなく、
恋い焦がれる者の甘い吐息だった。
◆
「再開するわよ」
お嬢様がソファに腰掛け、
優雅に手を叩く。
第二ラウンド。
夜姫は木剣を拾い上げ、
しらゆきの前へ立つ。
(速さだけじゃない
独占欲だけじゃない)
(愛を“守る力”に変えてみせる)
夜姫は低く構え、
瞳の奥に赤と金を同時に宿す。
「いきます、しらゆき」
「どうぞ、夜姫さん。
全力で」
◆
激突。
鋭い踏み込み。
最小限の回避。
情の乱れは、もうない。
赤闇の速さと闘志が、
金の冷静さと観測力と調和している。
(これが……夜姫さんの“完全形”)
しらゆきは内心、驚嘆していた。
◆
最後の一撃――
夜姫の剣先が、しらゆきの喉元寸前で止まる。
二人の呼吸が、触れ合うほどの距離。
「……チェック」
「お見事です」
しらゆきの瞳にわずかな悔しさと、
それ以上に輝く“認めざるを得ない光”が宿る。
◆
静寂の中、お嬢様の拍手だけが響く。
夜姫は剣を降ろし、
深く一礼した。
「これでようやく……
堂々と隣に立てますわね」
金と赤の瞳が、強く輝く。
恋が闇を輝かせ、
闇が恋に力を与える。
夜姫は真の意味で、
お嬢様の隣に立つ権利を手にした。




