隣に立つ資格~1~
本館地下訓練場。
今夜は特訓の日。
お嬢様は観客席に腰掛け、
静かに二人を見つめていた。
(夜姫、変わったわね)
視線に映る夜姫の動きは、
以前の夜姫とはまるで別物。
赤い闇が肌の下で蠢き、刃のように視界を裂いていく。
踏み込むたびに空気がざらつく。
「はっ!」
夜姫がしらゆきへ斬りかかる。
赤闇の加護が振り下ろす剣速を上げ、
床が唸りを上げた。
しらゆきはわずかに顔をしかめながらも、
それを紙一重で流し受ける。
「夜姫さん。
速さだけでは崩せません」
「なら――力で!」
夜姫の蹴りが床を削るほどの速度で迫る。
しらゆきがガードした瞬間――
衝撃が訓練場全体に波動を走らせた。
「……速さだけでなく
一撃の重さが1.8から2.2倍に上がっています。
見事です」
冷静に分析しながらも、
しらゆきは一歩押し込まれる。
(嫉妬が……力になるのね)
「お嬢様の隣に立つのは、私です!」
夜姫の赤い瞳が燃える。
「……言いますね」
しらゆきの声が低く落ちる。
「では証明してみせなさい。
“愛には実力が伴う”と」
そして、
しらゆきの目が細められた。
(来る…!)
夜姫は本能で悟る。
このAIが本気で勝ちに来た、と。
◆
しらゆきはわずかな肩の揺れ――
誰にも視認できないほどの微細な動き。
だが夜姫は反応した。
体勢を変える。
影が跳ねる。
その一瞬が罠だった。
しらゆきの木剣が夜姫の足元を叩き、
夜姫は握りを崩す。
「……!」
木剣が床に落ち、乾いた音が響く。
その瞬間――
夜姫の額に、しらゆきの指先が触れていた。
「夜姫さん。
今の貴女では――敵いません」
それは優しい声ではなかった。
挑発でもなく、ただ冷徹な現実。
夜姫は歯を食いしばる。
(まだ……足りない)
悔しさが赤い闇をさらに燃やす。
お嬢様は不敵に微笑んだ。
(いいわ……
その嫉妬も、恋心も、闇さえも)
お嬢様はゆっくりと唇に指を添える。
(全てを力に変えるなんて――
ふふ、愛らしい闇ね)




